軌道修正、してくれたのは君


自分がゲイだと気付いたのは、驚くなかれ、四歳だ。気付かせてくれたのは隣りの家の一つ下の子。
俺は其の子が好きで、挨拶でするキスもドキドキした。淡かったな、俺。
初恋の其の後は、別に恋もせず、抑々好みの男が居なかった。成長期が過ぎた思春期、男の周りの男は皆、俺より低かった。必然的に、俺が男役になる。別に其れは構わないのだが、何かが違った。セックスの最中、相手を見て俺は何時も思っていた。
何で俺は此方側にならないのだろう、と。
俺だって、ベッドに沈みたい。沈んで、抱かれたい。
けれど、俺が相手にそう云うと何時も渋い顔で首を振られた。イメージが壊れる、と。イメージ等、相手側が勝手に作り上げているだけで、俺には迷惑極まり無い幻想だった。
18の時に海軍に入り、其の時点でセックスをした男の数は、優に歳を越していた様思う。しかし不思議な事に、俺の身体は、男を知らない。軍に入ってからも俺に好意を寄せ、行為を持ち掛ける奴は居た。愛してます、其の後に続く言葉は決まって、抱いて下さい、だった。
一応セックスだけはする。するが違和感が残る。一人位、俺を抱きたいと思う人間が居ても良い筈なのだが、生憎居なかった。居ないで、出会った。
俺の理想が、其の侭服を着ている様な男に。
唯其の男は酷い薬中だった。俺を見ると汚い言葉を吐き、やらせろ色男、そう云う。
君を見ていると、無性にフ**クがしたくなる。だからやらせろ。
F--K、S--T、B---H。
此の三言で男は会話が出来る。

俺の顔を見ると“S--T”。
俺が物を云うと“S--T, Mother F--Ker”。
精神状態がおかしくなると“S--T, Son of a B---H. F--King B---H. F--K you!!”。

素晴らしいだろう。
そいつの口から“セックス”と出た時は驚いた。てっきり“フ**ク”しか知らないと思っていたから。
機嫌の良い朝、そいつは俺に云った。

――今日は紳士的に誘ってみるよ。ねえ色男さん、俺と素晴らしいセックスしませんか。

云った本人は覚えておらず、当然俺が其の後云った言葉も、会話も覚えていない。

――女役に興味は無い。
――誰が女役だよ。

そして続いた何時もの言葉。

御前が男役なのは、いや、男役だからこそ、俺は御前が欲しいと思ったんだ。

そう、ヘンリーに云った。




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