ライオンとハイエナ


レイラが居る所為か、夕食は矢鱈豪華だった。デザートは俺が作った。クラークの作った夕食も、俺の作ったデザートもレイラは美味しいと云って呉れた。女の子の声って云うのは本当に明るくて、楽しい夕食だった。生憎俺は男兄弟で、女と云えば母親一人だった。使用人は居るが喋る筈は無く、母親の声はレイラみたくソプラノでは無かった。
夕食が終わった後、ゲームをした。目隠し鬼、鬼は勿論レイラだった。目隠しされたアンティークドールはふわふわと歩き、グラスが誘導して居た。
「捕まった人は私と一緒に寝て。」
「じゃあ捕まろうかな?」
「今の声は誰?」
くすくすと少女の声は響く。俺は其れに、飲み込まれた。正確には記憶に。
マシューが居た場所に、俺の記憶は飛んで居た。はっきりと浮かび上がる新緑、漏れる日影は黄色や水色を纏い、足元には矢張り緑色があった。其の中で一際目立つのは修道服の白さ、目元はレイラと同じく塞がれて居た。臙脂色で、此れは俺のタイだった。
――さあさあ、悪い子は何処かしら?
――悪い子何て居ませーん。
子供達の明るい声、芝生の上を歩くシスターを眺めて居た。上の空だったと思う。逃げる子供達達とは反対に俺は芝生に座り込んだ侭、シスターが近付いて居る事にも気付かずに居た。
「捕まえたっ」
「え?」
目隠しを外したレイラは満面の笑みで、俺の左腕を掴んだ。
「ヘンリーね。」
「嗚呼、そうだね。」
レイラと今晩一緒に寝る事が確定され、マシューと寝た事さえ無い俺は苦笑った。
「代わろうか?マイ ロード。」
女と一晩共にすると云う事実が嫌だと思われた俺は、にたにたと猫みたいな口角を一層丸みを帯させ笑うシャギィを見た。
「結構だよ。君は何をするか判らないからね。」
「子供に興味は無いんだけど?」
女も相手に出来ると、最近知った。此れはシャギィ本人が云って居た。一人娘の令嬢を、こんな男と一晩一緒にさす訳にはいかない。シャギィ本人が興味無いとは云え、レイラはそういかない。代わろうかと云ったシャギィに、一瞬だが、女の艶を目に宿したのだ。見逃さなかった俺は、シャギィに云い乍らも、何処かでレイラに云って居た。
「俺と寝るよ、レイディ。」
「残念だね、シャギィ。」
「クラークさん、一緒に寝る?」
何時もは無表情で居るクラークには珍しく変な顔をした。
「私、寝相悪いんですよね。“無意識に”蹴飛ばすかも知れませんよ。」
「何時も、死体みたく真直ぐ寝てる癖に。」
「ですから、“無意識に”、ですよ。」
故意的に床に落とされる事を知ったシャギィは引き攣り、時計をクラークは爪先で叩いた。文字盤と爪、秒針は重なった。
「御覧為さい、今何時だと?」
――あら、ハロルドさん?
悪い子は?
「御就寝の時間に御座居ます。」
仏頂面のクラークに云われたレイラは頬を膨らませ、絡めて居た俺の腕に胸を密着させた。“無意識”或いは“事故”であるが、其の微かな胸の膨らみと柔らかさに、背徳的な鳥肌が立った。
――子供達だと思って、思い切りハグしちゃったわ…
――座って居た、私も悪いので…
額に感じたシスターの胸と腕に感じるレイラの胸の感触、何方が背徳的か。
「だから?」
「済みません…」
「え?」
俺は何かの病気なのかも知れない。思考と会話して居る自分に気味悪さを感じない筈はなかった。
クラークは当然、“御就寝時間”に“だから?”と云われた物と思い、困惑して居た。謝ったは良いが、俺達に寝て貰わなければ困る。何と返して良いか困り果てたクラークはシャギィを見、取り繕う様顎だけ動かした。
「ええと、ヘンリー?寝ない…?」
「嗚呼うん、レイラ、寝様か?」
支離滅裂も全く良い所で、正直俺だって如何返答して良いか判らない。レイラは腕から離れると二人に挨拶をし、又腕に絡み付いた。
「寝室は二階よね?」
「ゲストルーム、用意してるんだけど。」
「判ってる、今日だけ、ね?」
男二人が寝る場所に御嬢さんを、衛生的とか教育的とかで寝かせる訳にはいかないが、レイラ相手に通じる筈も無く、一階のゲストルームには向かわず二階に上がった。
毎晩の様に愛し合う其処に女が寝たとキースが知ったら?
少し面白いかも知れない。




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