未だ謎


三回負けた奴が居間に食い物を取りに行くと罰ゲームを設定し、わいが其れに為った。在の妖怪の巣窟に行く等真っ平御免である。謙太に行けと云ったが、俺は何時も一番上がりや、と運強さを見せた。
「恭子、一緒行こや。」
一人で行く事、本能で拒絶をして居た。形勢が逆転し様が、本能に根を張る恐怖は消えない。可愛い恭子は、ええよ、とわいに抱かれ、あかん近親相姦や、と兄に云われた。
「何があるかなぁ。」
「妖怪は食欲も旺盛やしなぁ。無いかも判らへん。」
「嫌やぁ。」
妖怪共は、煎餅とクッキーを食って居た。煎餅に興味は無く、テーブルに置かれるクッキーの皿を無言で取ると長女に手を掴まれた。
「一寸は断れや。」
「離せや。恭子が食いたがってん。」
「茜が持って来たんや、うち等に断らんとええ。茜に云えや。」
「貰ろてくで。」
「うん、ええよ。家に未だあるし、未だ要るなら持って来よか?」
わいは要らんと云ったが、一枚食べた恭子が要ると云った。三歳児に場が読める筈は無く、玄関に向かう茜に付いて行った。
「恭子、こっちや。ちゃう。」
「あかねぇと行く。」
「あかんて。恭子、茜の所行ったら、絶対何か持って来るやん。あかん。」
「嫌やっ、行くねんっ」
「ええよ、別に。」
「適わんなぁ。」
勿論、恭子にだ。茜のスカートを掴み、不細工な顔になった。此れは泣く前兆で、恭子は泣いたら最後、一時間は泣き続ける。此れは妖怪共にも不評で、此の時ばかりはリンチに遭う。なので諦めた。
クッキーだけを持って来たわいに三人は、恭子は、と聞いた。
「茜の家。クッキー持って来るて。」
双六升の上に置き、其れぞれ二回ずつ手を伸ばすと無く為った。
「八雲、御茶は。」
「はあ、すんません。」
兄に茶を催促され、又腰を上げた。
「まあええわ、ちょぉ座り。」
どっちゃねん、とは思ったが座った。
「自分、茜の事、好きか?」
何を唐突に良い出すのか、好きな筈が無い。わいは首を振り、女はよぅ好かんのです、と云った。兄は、在の妖怪に関われば当然やなと云う感じで笑い、二人にも同じ事を聞いた。二人も首を振り、謙太は美代子が好きだと云った。
美代子とは、馴染みの女で、髪は短く、浅黒で、一見男に見える。姉達とは違う活発さで、人に不快感を与えない稀な奴である。そんな事思っても見なかったわいと光大は謙太をからかった。今から告白や、と無理矢理立たせ、嫌がる謙太を引いた。
「あかん、あかんてっ」
「何がやねん。行くで。」
「無理無理っ、俺、美代子に萌やして嫌われてんっ。美代子、八雲が好きやしっ」
「何やて?」
謙太は爆弾だ。此方が考えても見ない事をぽろりと云う。其れは爆弾だ。
「八雲、モテモテやっ」
光大は一人笑い、兄の気不味そうな顔は判らなかった。誰も周りに注意等せず、襖の前に居る茜には気付かなかった。
「美代子だけちゃうわ、小百合居てるやろ。小百合も八雲が好きや。」
其の爆弾にわいは赤面した。
小百合とは、学校一美人と云われる、まさに白百合の様に華麗な女だ。
「小百合、ちゃん…?嘘や…嘘やてっ。あんな美人が、村一番の変態好きになる訳無いやんっ。頭おかしんか、謙太っ」
「嘘ちゃうわ、ほんま。明日聞いたら。」
美代子は未だ良い、彼奴は女と認識して居ないので、行為抱かれ様が、鏡見て物云え、で済む。美代子は其れを笑い飛ばす力がある。然し、小百合ちゃんは別だ。妖怪に囲まれ育ったわいに、小百合ちゃんは女神に見えるのだ。クラスが違う為余り関わらないが、一クラスが少ない為、体育は学年合同でする。其の時何時も、出席番号順で並び、隣のクラスな為わいの近付くに居る。しなりと体育座りをする其の姿に、体育等関係無かった。体育万歳だ。
小百合ちゃんは彫刻品みたいで、とても生身の人間とは思えないのだ。
「あかん…死ぬ…死ねる…」
小百合ちゃんに行為寄せられる等、英吉利の某大女優に好きよと云われる位だ。因みわい、其の某大女優にマス掻いた事がある。
力が抜け、赤面する熱い頬を両手で触った。
「あかん…。凄い衝撃や…。股間痛いわ…」
「黙れや変態。小百合ちゃんおかずにしなや。汚れるわ。」
「無理や、チンコ痛い…」
そう云う光大とて、小百合ちゃん相手にマス掻いて居る。謙太だけが、俺の相手は美代子だけ、と純愛を囁いた。
「八雲…」
「兄さん、わい、死ぬかもよぅ判らんのです…」
「自分等、何時気付くねん…」
人差し指で襖を指し、居る茜と恭子にわい達は雄叫びを上げた。美代子だの小百合ちゃんだの、男達の秘め事を無断で聞かれた。恭子は良い、意味を理解して居ないのだから。唯、兄ちゃん痛いねん大変や、と触ろうとした。
「恭子、あかんっ」
「恭子ちゃんっ其れはほんまあかんっ」
「兄ちゃんのはあかんっ」
「痛いねん。可哀相や。撫でたらな。」
「兄さんっ、恭子どっかやったって下さいっ」
「恭子、兄ちゃんとこ御出で。」
三歳児、恐るべし。無知とは全く恐ろしい代物である。
「恭子、八雲のな、痛いけど、撫でたらもっと痛なんねん。」
「可哀相やぁ。」
本当に可哀相だ。妹に股間を撫でられる等、不憫極まり無い。
問題は茜だ。クッキー缶を握り締めた侭放心して居る。無理も無い。此れは素直に、申し訳無く感じた。
然し大体だ。帰って来たのならそう云えば良いのに、何幽霊みたく突っ立ち、聞いて居るのだ。其れに腹が立った。なので何時もみたく剣幕を向けた。
「恭子の事、ちた考えや。」
「御免…」
「最悪や…。茜、美代子に云わんでや…?頼し…」
「云わんし、大丈夫…」
引き攣った笑顔で茜は返答し、兄は息を吐いた。
「茜に当たるとか、最悪や無いか…」
男が其れをするのは自然で、其れを知られたからと云って文句云うのは違うと怒られた。然し、兄が何と云おうが、無断で聞いて居た事に腹が立って居た。
「もう無理や…。明日小百合ちゃんに結婚してて頼むわ…。断られたら強姦するわ…」
「ほんなら俺、美代子に云うわ…」
そんな勇気無い癖にと、光大一人笑って居た。茜は未だ放心し、執拗に瞬きを繰り返して居た。
クッキー缶を其の侭床に置き、立ち上がる時、少しふらついた。
「御免…。帰るわ…御免…」
誰の顔も見ず帰る茜に兄は舌打ちし、阿呆八雲が、と茜の後を追った。何故そんな事を云われるのか判らなかったが、兄に云われたのならわいの阿呆さは本物なのだなと確信した。




*prev|3/4|next#
T-ss