田舎事情
蒸し暑い晩でした。暑さに中々寝付けず、其れでも無理矢理眠りました。
其れが悪かったのか、最悪な夢を見ました。
椅子に拘束された私は、目の前で男女の交わりを見せ付けられて居ました。腕を縛るのは蛇で、此れも又恐怖でした。女は人間なのに、女の身体を貪るのは蛙、在の、ペたりとした手で乳房を掴み、肉厚な舌で女の身体中を舐めて居ました。
ズルズルと蛙は女の唇を吸い、気持悪さに顔を背けると蛇が私を見て居ました。其の顔が段々と茜に見えて来るのも不愉快でした。
下品に蛙は鳴き、ふくよかな胸の頂に舌を絡ませます。女の咆哮は益々強まり、小さな舌を覗かせます。
最初は女一人に蛙一匹でした。
女の声が荒がると、何時の間にか、もう一匹蛙が増えて居ました。其の蛙は女を後ろから抱え、べちゃべちゃと女の顔面を舐め回します。
区別付かないのでAと後から現れたのをBにします。
女の両腕をBは掴み、両足を開かせると己の足で固定しました。Aは待って居たと云わんばかりに、開かれた股座に頭を向けます。ぬるぬると陰核を弄び、だらし無く開かれた女の口から涎に濡れた赤い舌が覗きます。
―もう、止めてや…―
私は必死に願いました。なのに私の目はしっかりと目の前の光景を捉えるのです。滲み出た脂汗を蛇の細長い舌が舐め取ります。がちがちと歯は鳴り、笑って仕舞う程膝は揺れて居ました。
Aの舌が恐ろしく長く伸び、舌先で陰核を揺らします。見る見る内に舌は男性器の形を成し、赤黒くそそり立ちました。
蛙の口から男性器が生えて居るのです。
Aは肉厚な女の内股にぺったりと両手を貼付けると、形成された舌を女の内部に押し込みました。
ず…ず…ずる…
Aの頭が前後する度、蕎麦を啜る様な音がします。暫くしますと、傍観して居たBの舌も長く、長く伸び、女の座高分伸びると、Aの舌が入る陰部に先を向けました。
若しや此の舌も入るのだろうか…
いやまさか、入る筈は…
嫌悪に眉を顰めました。私の脂汗を食す蛇みたくちろちろと、此れは陰核を舐めて居ました。
女の顔は、奇麗とは程遠い醜い顔でした。笑い乍ら涎を垂らし、乳房を揉み拉くBの手に手を重ねて居ました。
ふっと、顔の周りをそろそろ這って居た蛇が、下に下に方向を変えました。
―まさか…―
予想した通り、細長い蛇は私の股を裂き、寝巻の下を這います。内股に蛇の感触を知り、股間は縮み上がって居るのに、Aの舌の様に為って居るのが判りました。しゃ…しゃ…と舌は出、止めて呉れと願ったのも虚しく、在の細長い舌が尿道に入ったのが判りました。
不愉快さに吐き出すのと、女の絶頂は同時でした。
蛇の身体が陰茎に絡み付き、締め上げる、其の度吐き出しました。
形成されたAの舌からでしょうか、精液の特殊な臭いがします。又其れも不愉快で涙迄出ました。
ぺた…ぺた…ぺた……
裸足で近付いて来る様な、其れにしては数が多い様な…
聞こえて来た音に目を向けると、私は遂に発狂しました。でろでろに顔面が溶けた女が四つん這いで寄って来て居るのです。嫌に長い手足を動かし、にんまりと笑います。
女は私の足元に来ると顔を動かし、吐瀉物に舌を伸ばしました。ぴちゃぴちゃと音を立て、すっかり舐め取ると又にんまり笑いました。女の生臭い息が顔に掛かり、又、胃が動きました。
腐敗臭に近い異臭。
「うぇ…」
身体を捻り、胃の中身全て出し切りました。
聞こえる夏虫の声。
畳から漂う生臭さ。
布団と寝巻はぐっしょり濡れて居ました。
目覚めた事に気付いた私は薄暗い部屋を見渡し、夢を思い出しました。
一体何故あんな夢を見たのか。
日頃の行いが悪いからに決まって居ますが、認めたくはありませんでした。
時計を見ると午前一時でした。
田舎とは夜が早いので、其れはもう静かです。家族を起こさぬ様階段を下り、外にある井戸に向かいました。一心不乱に動かし、出て来た水に頭を突っ込みました。身震いする程冷たいのに、私の身体を通る時には茹だって居ました。
部屋に戻る気には、為れませんでした。吐瀉物を始末しなければ為らないのですが、そんな体力はありませんでした。ふらりと家から出、真っ黒な道を歩きました。裸足で。
くす、くすくす。
幻聴迄来したのかと、強張りました。然し、本物でした。
茜の家、其の前に人影がありました。
大きな木があり、暗い事も重なり、私の姿は相手には見えませんでした。
影は二つ。月明かりを受け、私の足元迄伸びて居ます。
「旦那に知れたら殺されるがな。」
草木の匂いに重なる煙草の匂い。
「いやもう、嘘やんな。」
「ほんまほんま。あかんて。」
然し声は笑って居ます。
「がっつり入ってるしな。」
「入ってるなぁ。困ったなぁ。」
影が動きます。
「会長に知れたらわし、死ぬがな。村の女に手ぇ出すなゆわれてんのに。」
「あら何でぇ。貴重な男なのに。」
「威厳?」
「何の。」
「極道の?いや、知らんがな。兎に角問題起こしたらあかんのやて。」
「嗚呼、イきそう。」
「人の話聞いてるか?」
「うちの人なあ、務め果たしたらさっぱりなんや。こうでもせんと…あたし死ぬわ…」
「此れが好きで堪らんて?淫乱か。」
くす。
草木のさわめきの方が大きいのでは無いかと、二人の声はとても小さな物でした。
失せた煙草の匂い。増えたのは、とてもか細い息遣いだけでした。
「あかん…、何処出そ…」
「中に出したらええやん…」
「はあ?数年後に“お父ちゃあん”とか呼ばれたないわ。」
「ほんなら出る時ゆうて。」
「今出る…」
瞬間影の一つは動き、凹凸を見せました。
小さな呻き声。
「嗚呼、其の手があったな。」
「口、やけどな。」
くす。くすくす。
まるで草木と歌って居る様にすんなり溶け込む笑い声。
又知る煙草の匂い。
草を踏み潰した時、独特な匂いがします。不愉快な、刺激臭。
「ほんならな、寝為さいよ、奥さん。わし眠いんじゃ…」
「キスしてキス。」
「嫌じゃ…。生臭い事此の上無い…」
「あんたに云われたない。生臭い事ばっかの癖に。」
「ど突くぞ、ほんま。己は泥臭いわ。」
影は、未だ、寄り添い合って居ます。
「…ほら、帰ん為さいて。」
「又、会いに来てもえ…?」
少しの無言。今迄ははっきりと二本に見えて居た影が、一本の太い影に為りました。そうして又二本に戻りました。
「会長が居てない時なら、な。」
「嗚呼、毎日居なけりゃええのに。」
「けったいな淫乱。会長に通したろか?在の人凄いしな。いやほんま。」
「何でか知らん…。知らんけど…、あんたが、ええのん…。知らんけど…」
細長い影が、丁度胸辺りに伸びました。そうして、蝶が飛ぶ様に影は動きました。
「可愛え事、ゆうやないか…」
「ほんま、よ…?嘘、ちゃうよ…」
ざり、と草履が砂を削る音がし、私は慌てて木の後ろに周りました。
月は大きく、道に伸びる影を消すと、後は唯、高い空から全てを照らして居ました。何事も無かった様に、静かに妖しく、輝いて居ました。
男女の中は決して美しい物だけでは無いと、私は知ったのです。
〔
*prev|4/5|
next#〕
T-ss