猫の交尾
「上に乗って、勝手に振ってろ。」
「あんた何するの?」
「眺めとく。」
「超ずぼら。」
汗が浮き始めた首筋に笑い声を寄せ、一つづつ釦を外した。するとちりんと鈴の音がした。ぐるぐると低い音が俺達の間に壁を作る。
被さった隙間にローズがちゃっかり横たわり、釦を外す手を甘噛みした。
「ローズ、邪魔しないでよ。」
「はは。」
ローズからして見れば俺達はじゃれて居るだけ、自分も入りたいと思うのは当然。俺が、彼等の仲に入りたい様に。
「御前も入るか?ん?」
キースは下顎を指先でなぞり、喉は一層鳴る。
「痛い痛い。」
問い掛けに答える様にローズは、キースの顎を噛み始めた。
「又今度な、御前は。」
柔らかい笑みでローズの鼻を舐め、アクアマリンは俺に向いた。
「何してる、早く入れろ。早く帰りたいんだ。」
此の違いは一体何なのだろうか。
触れた其処は柔らかく、まるで肉球の様。
「入れろ、って、あんた立って無いじゃん。」
「だったら立たせろ。」
「はいはい。」
「何だ、其の云い方。」
「Aye-aye Sir.」
俺にブロージョブさせ乍らも、キースはローズにキスをする。顔を寄せ合い、俺の存在等無い。けれど身体は素直で、二つの音がキースの上で踊って居る。
淫靡な水音と、愛らしい喉音。
口は圧迫感に支配され、気付いたらキースは俺を見て居た。下瞼を膨れさし、険しい顔をする。
「気持良く、無い…?」
堪らず聞いた。
教え込まれた此れを否定されたら、俺の人生、人格全てを否定されたのと同じ。俺より上が居るのも許せなかった。
全人生全人格を捨てて迄得たペットとしての位置、そんな俺と同等或いは上等が居る等、血を吐きそうな程悔しい。
「気持良いよ、普通に。だから困ってる。」
苦笑うキースに安堵した、が。
「何で困るの?良い事じゃん。」
「ヘンリーのブロージョブでイけなく為りそうだから。」
嗚呼困ったな、とキースは背中をベッドに付け、ローズの居ない方を向いた。
頭を抱え、足の指先に力を入れる。
其の言葉、俺の方が上、と取って良いだろうか。ヘンリーには悪いが、気分は良い。だって其れは、其の時が来た時、俺はヘンリーを気持ち良くさせてあげられると云う意味だから。
此れは未だ小手調べ、本気と思って貰っては困る。
喉に詰まったキースの声、其れにローズは驚き、匂いを嗅ぐ。
「嗚呼…?」
顔には擽ったさ、下では飲み込まれる程の快楽。上擦った声は必死に自分と戦って居る様で、キースは仰け反った。
「駄目、嗚呼駄目だ…っ、離して呉…」
「離すと思う?」
こんなに魅力的なペニス、離すには惜しい。
ずるりと喉奥迄飲み込み、出した舌で、窄み始めた袋を愛撫した。
「糞…っ」
左腕をベッドに打ち付け、此れは俺への抵抗、右腕で顔を隠しローズに抵抗した。
「シャギィ、シャギィ本当に…」
ひゅう…と息を吸う音が聞こえ、奥に流し込まれた熱い液体、搾り取る様に喉を動かした。
息を繰り返す度、キースの匂いが上下する。味は、奥な所為で判らなかったが、熱さと匂いからして相当濃い。筈なのに、俺の唾液を纏う其れは所有者のプライドを示して居る。
「キースって凄いね。」
形や色が魅力的なのは当然、けれど、欲を放っても尚此の状態とは、魅力的を通り越して、魅惑的で愛しい。
「キース、キース…」
脱力するキースに被さり、キスをした。
生気失った目は流れ、貪る様にキスをされた。防波堤が崩れた様に、快楽はキースの身体を高波に攫う。
俺の知るキースは、何処にも居なかった。傲慢な暴君は、俺と同じに快楽に唯唯素直な動物と成り変わった。
キスをした侭膝に乗せられ、今度は俺が寝た。
荒々しい愛撫、手慣れて居ないからがさつに為って居るとかでは無く、マスター同様加虐に満ちたセックスを好む男なのだと手付きで判る。
太股を引っ掻き、臀部は爪が食い込む程鷲掴まれ、快楽が湧き出た。噛み付かれる度息は上がり、マスターとは又違う暴力的な愛撫に頭がくらくらして来た。
俺を抱くのはマスターだけ、取り巻きの奴等は俺が抱いてる。取り巻きとのセックスは、俺の派閥に定着させる為、が目的なので、恋人達がする様な、…反吐の出るセックス。マスターは此処最近、六十過ぎてから一気に体力と精力が落ちた。サディスティックなのは変わらないが、体力が無い。数年前から医者に“激しい運動禁止令”と“食事改善”を突き付けられた。俺となら腹上死も勲章、と本人は暢気に笑うが俺は困る。
死ぬなら、俺が元帥に為ってから。
そして今度は、俺がマスターに為る。老い耄れたソ連の富豪の金と権力と人格を、好きに操る。
そんなセックスしかして居ない物だから、精力全盛期のキースの愛撫は堪らない物だった。掴む一つにしても、抉り取る様に強い。手慣れた加減、遊び慣れた男のセックス……涎は溢れ、久々の快楽に股間は鉄の様に固く為り、頭はガンガンして居た。余りの興奮に、耳鳴りもする。
「キース、キース…。もっと、もっと強くして。」
前戯だけで満ち足りる様な陶酔感、なのに貪欲な俺の身体は、キースの指先を知る程細胞が擦れ合い、強い刺激を求める。
「だらし無いぞ、シャギィ。」
言葉通りだらし無く垂れる透明な液体を指先でキースは遊び、そして何か違う感触もした。
ぐるぐるぐる…。
キースの手に頭を擦り付けるローズの髭先が物を掠める。痛い様な擽ったい様な感触にも反応して仕舞う。
「ローズ、あっち行って…」
「如何やら俺の手が御好きらしい。」
先から溢れる体液で遊ぶキース、其の手で遊ぶローズ。針に刺された様な鋭い爪の痛みに息が詰まり、涙が滲んだ。
「ローズ、駄目。女が考えるより男の物ってのはデリケート何だ。」
内股を撫でる毛並み、くすくすとぐるぐるが俺の股座で調和する。
噛まれた内股、普段は「噛み癖直らないかな」と思う程煩わしい物だが、今の俺には堪らない刺激だった。
腰に重い感覚が溜まり、内股に力が篭る。後少し、何か刺激を受けたら、ローズの愛らしい顔に液体を掛けて仕舞う。鼻が奥に引っ込んで居るペルシャ猫だから窒息するかも知れない。
「ローズ、ローズ駄目…、御願いだから向こうに…」
先から溢れる液を掌に擦り付けたキース、其の圧迫感は充分な刺激で、奥から吹き出す其れを塞き止める様に手は形を変える。指の隙間から溢れるのであろう、仰け反る俺は腹部にキースの低い笑い声を響かせた。
「勢い良いな。若いからか。」
「キース、キース、其の侭ずっと擦って、素早く。」
離そうとした手を慌てて引き取め、俺は云った。
「凄いの、見せてあげる…」
小首傾げはしたが、其の凄いのが見てみたいキースは、俺の指示通り、先を刺激した。
イッた後のペニスは一寸の刺激でむず痒さを知る、其れをずっと続けて居ると、凄いと云うより、面白い現象が起きる。
むず痒さに涎が止まらず、笑いも止まらない。俺は何時も此の時、気違いみたくあはあは笑ってる。本当に声を出し笑い、白目向いて涎を垂らす。鏡で其の顔は見た事無いが、気持悪いと思う。
一番最初に其れを始めたのは他でも無いマスターだが、俺の顔が余りにも気違い染みて居るもんだから、中々して呉れない。だから余程酷い顔なのだと思う。
「酷い顔だな、御前…」
何てキースも堪らず云った。
知り合いに、マスター経由で知った女なのだが、生まれた時から玩具としてでしか存在しない奴が居る。とても奇麗な顔をした美女なのだが、頭がぶっ飛んで居る。言葉も「あー」とか「うー」とか喃語に近い言葉しか話せない。マスターの知り合いの富豪、其の時の玩具が彼女だったので紹介された。マスターは物を大事にする人だから、其の富豪の飽きっぽさに呆れ乍ら「又変わった」と云うと、「玩具ってのは次から次に新しい物が売られ、我等の購買意欲を駆り立てる、金持は其れに踊らされな為らん、経済が潤滑するから」と彼女の顎を撫でた。
――シャギィは、ペット、だろう?ペットは飽きたからって捨てる訳にはいかんだろ?
――ペットは良いぞ、癒しがある。玩具には無いだろう?
――無いさ、暇潰しにしか為らん。
――俺の愛と金をたらふく食らい込む、俺の可愛い猫。シャギィが居れば、玩具何か要らないな。猫に玩具は必要だが。
――新しい玩具は、此れ?
――玩具とペットの決定的な違いは“会話が出来るか否か”だな。
何て俺達の会話を、彼女は不気味な顔で聞いて居た…のかは判らない。薬で頭はぶっ飛んで居て、与えられる快楽に恍惚とする顔は余りにも美しくなかった。酷い顔だった。こんな無様で醜い顔、他に無いんじゃ無いかって程。
俺も今、そんな顔をして居る。
内股に電気を流された様な感覚が走り、俺は頭を押さえ、其れが来る事を教えた。
今の俺は、在の彼女みたく「あー」や「うー」しか出ない。
射精に似た感覚だが、全く違う快楽。射精の快楽が三なら此れは八位。後ろを突かれた快楽…?其れは六位。
射精しか知らない男って、何が良くてセックスをするのだろうか。不思議で堪らない。
精液でも尿でも無い飛沫が飛び、驚いたキースは少し離れた。全身を貫く快楽、腰が揺れる度笑いも溢れ、飛沫は一層飛んだ。
呆然と見事な水芸をキースは眺め、終わると「確かに凄い」と唸った。
「何が起きたんだ?」
「知らない?潮吹きって奴。」
笑いが止まらない口元で会話をするのは困難、身体を巡る痺れを払う様にキースの肩を掴んだ。ゆっくり肩にキスをし、ベッドに寝るキースの身体の至る所に同じ動作を繰り返した。
「俺ね、手も凄いよ。」
精力を弱めたキースの先を撫で、びくりと跳ねた足を脛から膝迄舐め上げた。少しくったりと頭を下げる先を舐め、両手にローションをたっぷり含み、白く為る迄捏ね回した。先をどっぷりとローションで包み、膣の動きを再現した。でもキースは女とした事無いから、知らないかな…?
女の中ってのは、其れはもう楽園に近い場所何だから…。
「気持良い…?」
「此れだけで充分だな…」
「そう。」
キースの欲を呼び出し、俺は自分の準備をした。余る程のローションで入口を解し、手を離した俺はシーツで拭くとキースの肩に乗せた。
「楽しませて、キース…」
自分の唇を舐め乍ら、考えた。此の魅惑的なペニスに犯される事を。当て行っただけで腰が痺れた。固い熱の塊が肉襞を押し割り侵入する………想像以上の圧迫感に声が漏れた。俺のペニスははしたない程喜び、一寸射精した。
シーツから背中を離したキースは俺の臀部を鷲掴み、深く揺らした。
「変態爺のペットにしてはきついな。」
「んふふ…、其処も調教されてるんだよ。」
「へえそう。」
ぎゅう…と締め上げるとキースは呻き、緩めろ緩めろと云う。
「動けないだろう。」
「食い千切っちゃうかもね…?」
キースの唇を舐め回し、揺らされる度しっかりと筋肉の付いた肩に爪を立てた。
「跡残すな馬鹿。」
「だって気持良いから…、其処、其処もっと突いて…っ」
「痛…、痛いって云ってるだろう…っ」
「嗚呼駄目…っ、最高…っ」
「此の馬鹿っ」
がっしりと両手首を掴まれ、膝に乗って居た俺はベッドに寝かされると頬を叩かれた。じんじんと頬が熱く為り、快楽の声が漏れた。片手で俺の両手首を固定したキースは爪を立てた肩に目を向け、薄皮捲れ赤く為った傷に舌打ちをした。
「最悪御前、何考えてんだ。」
「御免…」
ベッドに脱ぎ捨てられた俺の服、ネクタイが蛇の様にシーツに添って居た。するすると引き寄せたキースはにったり笑い、固定する手首をタイで結んだ。
「此れなら悪さ出来無いだろう。」
「…最高。」
ちりん…。
黄色い目が俺を見る。
ぐるぐると顔に擦り寄り、ざらつく舌で唇を舐める。
「駄目、駄目ローズ…。俺、もうおかしいんだ。」
「ローズの首輪、趣味が良いな。」
「でしょう、俺がデザインしたの…」
「此れは?」
ベッドの下にあった首輪をキースは拾い上げ、揺らす。首輪から伸びる鎖はベッドに繋がれ、勿論、ローズの物とは考えて居ない。マスターが一日此処に居る時、俺は此の首輪に繋がれる。
「此れも趣味が良い。」
「マスターに云っとくね。」
「御前の肌色に良く似合うな。」
かちゃかちゃと首輪を締め、手に巻き付けた鎖を引いた。行き成り引かれた俺は四つん這いに為り、一度尻を叩かれると入れられた。無理矢理鎖を引かれ、苦しさに涎が垂れた。手綱の様にキースは操り、俺は両手浮かせ動いた。
「苦しいか?ん?」
「あ…」
「はっきりと云えよ。」
叩かれた臀部は、見なくとも真っ赤に為って居るのが判る。
「気持…良い…です…」
「舌、出せ。」
仰け反った侭舌を出し、キースの柔らかい舌を味わった。顎を掴まれ、呼吸は侭為らず、酸欠状態に為って居るのに快楽は強まるばかりだった。
こんな激しいセックス、何年振りだろうか。まるで昔のマスターみたいだった。俺の頭はあやふや、キースをマスターと間違え、鳴いた。
「ん…?」
ローズに向けられたキースの視線。猫の鳴き声がした為かローズが鳴いたと勘違いし見たのだが、ぱたりぱたりと大人しく尾を揺らすだけ。
「シャギィか。」
「ぶにゃあ…ぁうん…」
「可愛い声だな。」
マスターの猫に対する執着は凄い。最初俺を飼い始めたのだって、顔も動きも猫に似て居るからだった。快楽が極限に達した俺は、調教通り、猫の鳴き声に似た声を出した。
鎖の音が大きく為る度、息苦しく為る度、快楽に支配される度、俺は鳴いた。
「鳴け、もっと鳴けシャギィ。気持良いだろう。」
四つん這いとも座位とも取れない体位で繋がり合い、痛さを覚える程張り詰めたペニスをキースは掴んだ。此の侭握り潰す気じゃないのかと思う程の強い力で、赤黒く変色した。
縛られた手をベッドの枠に乗せ、体勢を整えた。頑丈なベッドが揺れる事に驚いた。模様替えし様にも男二人でやっとこさ動かせる程なのに、がたがた揺れて居る。
「シャギィ、シャギィ…」
浴びせられる甘い声に耳鳴りと光のちらつきが一層強く為り、体勢とか体裁とかもう如何でも良く為って仕舞った俺は、上半身をベッドに伸ばし、引き寄せられる侭腰を突き出した。
「もっと其の可愛い声を聞かせろ…」
「うにゃ…あうん…」
「嗚呼良いな…。御前、最高だよ…」
俺は此の時思った、キースをマスターに出来たら、俺は倖せに為れるんじゃ無いかと。そうしたらヘンリーの傍にも居られるのでは無いかと。
「ねえマスター…」
「朦朧してる所悪いが、俺はマスターじゃない。」
「ちゃんと判ってるよ…」
繋がった侭回転し、きちんとキースに向いた俺は、口でタイを外した。
「俺のマスターに為ってよ。」
「…断る。興醒めだ。」
「ねえ、御願い。」
ごろごろと首筋に寄ったが、首を掴まれ、ベッドに沈められた。
「油断して牙向かれたら堪らんから遠慮する。」
「キースに抱かれてる時はヘンリーの事忘れてあげるからさ。」
「主人の恋人に色目使うペット等言語道断だ、要らん。」
「ちぇ…」
「俺好みに躾し直すのも楽しいかも知れんがな。」
両頬をぶにゅりと掴まれ、突き出た唇にキスを貰った。
痛みにだけしか快楽を知る筈の無かった俺は、其の何気無いあやすキスに気持良く為った。繋がった侭キスを貰い、指先が痺れ始め、自分でも「まさかそんな」と思ったが、驚く前に射精した。
キースは腹部に知った熱に一寸視線を向け、優しく笑った。
「キスでイかれるとはな。」
「いや、俺も、驚いて…」
職場では決して見ない優しい目、身体の奥から痺れ、疼き、陶酔感に目を閉じた。繋がる其処は無意識に締まり、キースに感じた俺は何て甘いんだろうと喘いだ。
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