松山さん2 ―冷たい華―


漆黒に見えるが此れは紫。其の塗料を塗る指先が垢や脂で汚れる札束を素早く勘定する。札束と指先の逢瀬を、硝子の笠を持つランプが照らす。中には小さな蝋燭が立ち、店を一層妖しく演出して居る。
「今週は此れ位ね。」
ランプか札か…何方の溜息とも取れる冷華の声に売り上げ金を確認した。今週の売り上げは五百と少し、相変わらずの売り上げだった。此のマジェストリー マダーはわしが見る店で一番の売り上げを持つ。週の売り上げは大体五百程で、其の四倍が此の店の月商、年商にすると約二萬五千円で笑いが止まらない。変態の欲望を満たすだけで何とボロい商売か。組に入る金は売り上げの十パーセントで残りは冷華のモノ、とは云っても此処に居る女の殆どがウチに借金取りした阿呆ばかりなので取り分は半分づつなのが現状。
簡単に説明すると、月に二千円売り上げたとしたら、一番最初に引かれるのが上納金の十パーセント二百円で、残りが千八百円。
此処から各々の計算が始まる。
借金の完済?
そんなモノ、わしの辞書には無い。
此処に身を落としたら最後、完済して居様が解放する積もりは無い。死ぬ迄金を量産して貰う。
大まかに計算して女達の借金分で又五パーセント減るとする。
残りは千七百円。
其れが此の店の本当の月商である。
わしに個人的に十パーセント呉れと冷華に頼んでみたが五パーセントしか呉れない、何とがめつい女か。そんな鼻くそみたいな金額要らん、と思うのだが、年間にしたら結構な金額になったので有難く“小遣い”を貰っている。
其れで残りが約千六百円、其処から従業員の給料を引く。
此処からが、冷華を“女王”と従業員が崇め、従い、犬に為る理由に為る。
此の千六百円を折半するのだ。大胆に。
詰まり冷華の月収は八百円しかない。二千円も売り上げて於いて、だ。
残り半分を“六”で割る。
一人大体百三十円。こんな貰って良いんですか?と“五人”の従業員は聞くが、冷華は気にしない。
冷華は、其の美貌と引き換えに学歴を破棄したのだ。
所謂“高学歴”と呼ばれる人種を酷く嫌い、依って此処の従業員には大手商社に務める大卒者以上の給料を渡している。奴等は百円位じゃ無いだろうか。此処に居る従業員は“女王”同様、中学が最終学歴、そんな底辺も底辺の人種が大卒者以上の給料を貰うのだから、冷華の調教力と云ったら無い。冷華の全てに尽くし、女達同様、冷華に身を落とす。
残りの“一人分”が何処に行ったかと云うと、此れが“経費”に為る。
黒字にもなら無ければ赤字にも為らない、抑に冷華は贅沢者では無く金が好きなだけなのだ。金が手元にさえあれば其れで満足。贅沢に全く関心無く、冷華の身の回り品を揃えるのは大体がわしだったりする。
冷華は、金が大好き故、金を使いたくないのだ。手放す筈が無い。
従業員も従業員で底無しに冷華を崇拝、心酔して居るから、「冷華さんに似合うと思って」「冷華さんの為に」冷華さん冷華さんと、服や装飾品を献上する。鐚一文使う事無く冷華は女王の椅子に居るのだ。
「御前、死んだら、金は如何なんねん。」
十年以上蓄えた莫大な金、計算するのも面倒臭い。
冷華は長い四本の指を顎に沿え、墓場に持って行く、と口角を上げた。
「ふわぁ、勿体な。」
「私の御金よ、私の好きにするわ。」
でも、と顎から手を離し、ゆっくりと背中を伸ばし、鼻から息を抜き乍ら態勢を変えた。猫が態勢を変える様な優雅で艶かしい動きだった。
「誠昭には御世話に為ったから、貴方にあげ様かしら。」
本心か冗談か、冷華の瞳は、何時も判らない。
「ほ、大きに。」
「誠昭、と云う依りは、恭子ちゃんね。」
「恭子嬢?」
「うん。」
「ほんなら組に呉れや。」
「嫌よ、私、由岐城に恩は無いもの。」
其の通りだった。冷華はわしが勝手に神戸から連れ出したに過ぎない女。個人的感情で冷華を連れ出した。其処に組は一切関係無く、冷華が云う様に、知り合いが偶々由岐城の幹部だった、と云うだけ。そら金は借りてたもの、一切の被害は無いのだから。
「わし、やっぱ冷華に惚れとるんかな。」
「さあ、ふふ、そうなのかもね。」
「怖い女。」
「今更よ。」
「後五十年は一緒おろな。」
「やぁよ、でも考えて於くわ。」
冷たい華が、暖かく笑う。




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