二束三文の対価


普通なら、他にも客が付く筈なのに、私は元帥様以外と肌を重ねない。何故と母様に聞いたら、元帥様の御意向、そうとしか教えて貰え無かった。其の裏で莫大な金が、見た事も無い金が私一人の為に動いている事等、知る由しも無かった。邪推な事は何も考えず、唯々元帥様の事だけを考え、又考える様云われ、努めた。愛しき元帥様の、事だけを。
田舎に残した家族の事は不思議と全く思い出さ無かった。父は未だ酒の力で暴力を振るっているのだろうか。母は唯殴られているだけなのだろうか。兄は若しかしたら血を吐き死んでいるかも知れない。普通はそう思うのだろうけれど、そんな事全く考えなかった。可笑しな事に、どんな顔をしていたかさえ思い出せない。本当は私に家族等居らず、頭のイカレタ娼婦の想像で、私はずっと此処に居たのではないかと、そんな不思議な感覚さえした。
そう云えば、持っていた在の鞄は何処に行ったのだろう。無いと云う事は捨てた事に為る。私が。家族の記憶と共に。其れなら思い出さないのも納得出来る。捨て、消えた物を如何して復元出来る。矢張り私は、始めから此処に居たのだ。
愛しい元帥様を思って。




*prev|3/6|next#
T-ss