二束三文の対価
彼が居ない夜は、孤独で死んで仕舞いそうに為る。又会えると判って居ても、彼が帰った後の彼の匂い残る部屋は虚しく、私は彼を思い、泣く。泣いて、目が腫れ、顔が浮腫もうが、如何せ私の顔等見る者は居ない。彼が来る頃、私は笑っている。
そんな生活が軈て一年経とうとしていた時期、私は彼の子供を此の身体に宿した。母様は酷く嫌な顔をしたけれど、私には其の理由が判らなかった。
私は無知な田舎者。
孕んだ娼婦が一体何をするか―――此の一年、私は一体何を見て来たのか。付き突けられた現実に、私は如何する事も出来なかった。産む事も、まして結婚等、出来る筈はないのだ。
所詮私は、娼婦に過ぎない。
何時もの様に元帥様は馬車に乗って、笑っていた。そうして、其の笑顔が凍り付いたのを、此の目で見た。母様から出た言葉に依って。
「そう。」
元帥様は一言云って、息を吐いた。女優の様な母様は、冷たく笑って、私の髪を撫でた。
「木島様、判って御出でだけれど、此の子はそう、貴方以外は知らないの。まさか、此の期に及んで、俺じゃない、等云わないね…?」
散々大金を貰って於いて、母様は更に大金を貰う気で居た。当たり前だ、こんな絶好の機会、他には無い。脅すだけ脅す気なのだ。元帥様が動かしていた金は、国民の税金、詰まり私達の金だ。其れを如何し様と、文句は云えない。
「…幾ら欲しい。」
如何という事は無いと云っていそうな顔で、元帥様は云った。所詮、そんな者だったのだ、私等。
愛していたのは、私だけ。
知った気持に、私は俯き、言葉を待った。抑、娼婦は恋等してはいけないのだ。其れに背いた私は、罰を貰っただけ。其れなのに、痛い。心が痛くて痛くて堪らない。
娼婦になんか、為るんじゃなかった。
けれど、娼婦で無かったら、元帥様とは会えなかった。
二つの気持が渦を巻き、竜巻を起こした。身体の中で、轟々と音を立てた。
「欲しいだけ遣るよ。如何せ俺の金じゃないし。嗚呼、又怒られるな。」
又。一体此の人は、何度同じ事を繰り返して来たのか。そう思うと、無性に汚く見えた。愛しい筈の元帥様が、一瞬にして汚く見えた。
「云ってよ。明日も持って来るから。」
母様の奇麗な口が動き、出た金額に私は驚いたけれど、元帥様は眉一つ動かさず頷いただけだった。
「安いもんだな。」
其の言葉。私も、私の身体に居る命も、二人で居た在の時間も、安いの一言で片付けられた。此れが、男だ。男等、こんな生き物に過ぎないのだ。どんなに偉い軍人だろうが、謡われ様が、男という生き物は自分勝手に過ぎないのだ。女を、家畜と思って、そうだろう。
此れが、木島の答えだった。
〔
*prev|4/6|
next#〕
T-ss