ウェストウッド通り
雨ばかりが降る。なのに何故、母が殺された日はあんなにも晴れていたのだろう。
そう、イヴは赤く鬱血する自分の手を見た。
「人を殺すのって、意外と簡単ね。」
床に伸びる男に、イヴはヒールを突き付け、紫煙を吐いた。
白い皮膚は無数のミミズ腫れを纏い、腹部にはみすぼらしく精液が這っていた。余りに滑稽な姿にイヴは心底笑い、煙草を消した手にナイフを持った。
「貴方には此れが似合いよ。」
ラ・カンパネラの旋律がイヴの口から漏れる。男は何も云わず、見開いた目でイヴを見詰め、自身の陰茎が切断される音を何も聞こえない耳に送った。
「次の晴れの日は何時だ。」
死体の写真を見ていたケネスは部下に聞いた。此の殺人鬼が動くのは、決まって月の美しい夜だった。
被害者に共通点は無い。此れがブロンドや碧眼、黒髪、黒人であれば、何と無くだが犯人の狙いは判る。けれど写真を見ても、髪の色も目の色も国籍も、全く違う。無差別、にしては何かが引っ掛かる。
犯人は女。其れも男に異様な恨みを抱いている。全身に鞭で打った跡や、煙草を押し付けられた跡、虐待性はまちまちだが、一貫して全ての死体は性器を切り落とされて居た。
ケネスは咥えていた煙草を捨て、もう一度写真を見、其の死体に聞いた。
「御前達を殺した女は、良い女か?其れとも、悪い女か?」
「ケネス。」
「何だ。」
入って来た同僚に、興味深い資料を貰った。此の被害者達の共通点。
「犯人は娼婦か?」
「多分な。其の線が濃厚だろう。」
被害者は皆、女を買っていた。そう考えると、犯人は女を食い物にする金持ち嫌いかとも思ったが、収入も職業も違う。何処にでも居る、普通の男達なのだ。休日の昼間は公園に居そうな、本当に、普通の男達。
「犯人の目的は何だ。」
無差別にしては質が悪い。
「此の哀れな男達に共通している女は居ないのか。」
「其れが、全く出て来ない。」
「出ない?娼婦だろう?殺される前に会った女位見付かりそうだが。」
同僚は言葉を濁した。
「生憎娼婦は、他人に興味が無い。一々客の顔なんか覚えちゃ無いし、他の奴の客なんか見ないよ。御前は娼婦の顔を覚えてるか?」
「生憎俺は娼婦と寝ない事にしてるんだ。」
大層だね、と同僚はケネスの肩を叩き、眉を上げた。其の顔にケネスは眉を顰める。
「何だよ。」
「イヴ、だっけ?良い女じゃないか。食われるなよ。あの手の女は娼婦より質が悪い。」
騙す気の無い女に騙される程厄介な事は無いと、同僚は頷く。ケネスは呆れ、資料をテーブルに投げ捨てた。煙草を咥え、小さく舌を鳴らす。
「騙されるって?」
「愛してるわケネス、ずっと此の侭で居て……ベッドの中でそう云われてるんじゃないのか?」
楽しそうな同僚の顔。
「其れが、騙しだよ。本気にするなよ?」
御疲れさん、と同僚に背中を叩かれ、ケネスは荒く紫煙を吐き捨てた。
「そうね、良い子よ。ゆっくり近付いて。そう。」
全裸で目隠しをされ、首輪を付けられた男は鎖が引かれる侭四つん這いでイヴに近付き、其の真白な太股にキスをした。
「駄目よ、未だ駄目。」
「愛してる、イヴ…」
太股から離れた男の唇がイヴの秘部に重なり、音を出した。
「駄目って、云ってるじゃない…」
イヴは笑い、男の頭を掴んだ。音に紛れ、男の呻き声が聞こえた。慌てて男は其処から顔を離そうとしたが、イヴに固定された頭は動かなかった。
「もっと、ちゃんと、味わって…」
赤い唇が動くと同時に男の手が痙攣し始めた。両手で男の頭を押さえ、其の顔は笑っている。
一分、二分…男の伸ばした舌が激しく揺れ、オーガズムを知らせるイヴの甘い声と共に舌の動きは収まった。
じんわりと背中に汗が滲み、脂汗を絡める男の頭から手を離した。
仰向けになる男の下半身は、死後に見られる陰茎の起立を現し、イヴの口元が緩んだ。無意識に、何時もの旋律が漏れる。
起立する陰茎を掴み、ぬかるむ其処に押し当て、息を吐いた。
未だ暖かい陰茎、豊満なイブの乳房が揺れ動き、勝手に声が漏れた。
「最高…」
一人勝手に果てたイブは内腿に余韻を残した侭床に座り、何事も無かった様にコンパクトを覗いた。
快楽に色付く目元、少し色が取れ掛かって居たので口紅を引いた。
後ろに映る、未だ勃起する男。
パチンとコンパクトを締め、振り向いた。
「女の股座で死ねるなんて、男冥利に尽きるわね。変態野郎。」
冷淡な目で天井を眺める男を見下し、男の口の周りに付く液体をタオルで拭いた。
「ねえ、ミスター。気持良い事してあげる。」
伸びたイヴの手は男の股に触れ、ゆっくりと身体を舐めた。腹部の体毛を舌先に教え乍ら、一層険しい其処にイヴの口は向かった。
顔を上げたイヴ。顔面を血に濡らし、口に噛み千切った性器を咥え、嬉しそうに笑っている。視線を上げた窓の外には、其れは美しい月がイヴを見ているだけだった。
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