ウェストウッド通り
僕の名前はアイヴァン。ジャズバーのバーテンダーなんかして居る。僕はゲイで、女に興味が無い。其れが可哀相だという男も居るけど、僕はそうでもない。
でなければ、こんな貴重な体験は出来ないと思う。
水に落とした男を見て、僕は十字を切った。其れが気に食わない横に居る女は紫煙を吐き捨て、煙草を男に向かって投げた。じゅっと音を立て火が消える。
彼女にあっさり命を消された様に。
「何してるの。」
「哀れな男達に十字を切ってるの。女なんかと寝るからこんな目に遭う。」
「御苦労様。」
イヴは草の上を歩き、石畳に出ると靴に被せていた袋を取り、ヒールの音をさせた。僕も同じ事をした。
「イヴ、何時迄経っても捕まらないね。」
星の下でそんな会話を交わした。
夜空を嵌め込んだ様なイヴの目、なのに星は全く見えない。
昼間はキラキラして居るのに、本来の時間になると星が無くなる。只管に真っ黒い目で、黒い夜を見る。
僕は、此の目を見ると息が詰まり、其れ以上言葉が出なくなる。
世界の悲しみを詰め込んだ様な色。
「…ケネスと、如何…?」
星一つ無い暗黒の空に一番星を見付けた。
「いい感じ。」
無邪気に笑うイヴは、僕が出会った頃のイヴと同じ顔。ママ、迎えに来たよ、と幼い少女には少し重たいドアーを押して、けれど笑顔で言葉を繋ぐ。
本の数ヶ月前迄は、何処にでも居る少女だった。お洒落をして、学校に行って、母親を死ぬ程愛して居て…本の数ヶ月で、何処にも居ない、僕さえ知らない少女になった。
なってしまった。
あの犯人は、イヴの母親を殺しただけでは無く、純粋其の物だった少女迄をも殺した。そして、魔物を生み出した。
憎いよ、犯人が。
無邪気なイヴを返して呉れ。
無駄にある星は、ちっぽけな僕の願い等聞いちゃ呉れない。
僕の名前はアイヴァン。何処にでも居る唯のバーテンダーだ。
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