ウェストウッド通り
料理は上手な方だとイヴは自分でも思う。
先ずに母親が料理上手であった。母親の支度を毎日眺めるイヴは、料理が魔法の様に思えた。同時に、母親の手は魔法の手だと信じた。
「でね、此の間。」
ワインを飲み乍ら肉を焼くイヴは、同じに食卓でワインを飲み乍ら料理を待つケネスに云った。
あの雨の日から出会って五ヶ月、イヴが狂気を纏い始めて半年、被害者は八人に上って居た。
「牛のペニスが売ってたのよ。」
随分と太いソーセージを盛り付けた皿、ケネスの顔が引き攣ったのは当然だった。グラスを口に付けた侭皿を凝視するケネスにイヴは噴き出し、皿と自分を交互に見る姿が又可笑しかった。
「違う、此れは違うわよ。」
「買ったのかと思って…」
「大丈夫よ此れは。ちゃんとした腸詰よ。やっだ、可笑しい。」
「だったらそんな話するなよ…」
一息にグラスを煽り、何時に無く笑うイヴを凝視した。まるで少女、五ヶ月も一緒に居り、尚且つ肉体迄関わりを持って於いて今更だが、ケネスはイヴの正確な年を知らない。二十歳前後であるのは判る。
「そう云えば、イヴって幾つなんだ?」
互いのグラスにワインを注ぎ乍ら尋ねた。
「十九だよ。」
「へえ。」
「ケネスって幾つ?」
「聞かない方が良いと思う。」
「判った、当てる。」
眉毛に付きそうな程長い睫毛を強調し、グラスを傾けた。当てれるものなら、と挑発的にケネスは視線を流し、此の、牛のペニスと見紛う程のソーセージにナイフを向けた。
「三十二。」
「どうせ、警察手帳見たんだろう。」
「うんそう、何で判ったの?」
「刑事の勘。」
運ばれた肉の塊をイヴははっきり捉え、咀嚼され、喉が動くのと同時に目を閉じると笑顔を向けた。
「其れね、牛のペニスよ。」
「やっぱり…」
「刑事の勘って当てにならないのね。」
「何て物食べさすんだ…」
「大丈夫、スペインじゃ良くある事よ。」
「此処はイングランドで、スペイン人が食べるのは睾丸だ…」
「でも本当云うと、其れ、馬鹿でかいソーセージよ。」
「頼む、本当にはっきりさせて呉れ…」
「抑にね、ペニスって、そんなに柔らかく無いわ?」
挑発的なイヴの目に、ケネスはフォークを置いた。
「何で知ってるんだ?」
グラスは綺麗な透明感を見せた。満たされる赤いワイン。
「だって貴方の硬いじゃない。」
ケネスを見た侭イヴはソーセージにフォークを突き立て、其の侭口に運んだ。
「とてもじゃ無いけど噛み切れ無いわ。」
音を立てソーセージは割れた。
「ソーセージって何で噛み切れると思う?」
肉厚な唇が上下左右に動く。
「中の肉がミンチだからよ。」
「嗚呼、成る程。」
「ステーキは、噛み切れ無いでしょう?」
「だなぁ、分厚い程。」
「ペニスも同じよ、肉の塊。然も私が嘘吐いたのは牛のペニス。人間以外はね、ペニスに骨があるのよ。」
「そんなにペニスを連呼し無くてもいいだろう…」
「そうね、まるで変態だわ。」
二十センチ程のソーセージはあっさりとワイン一杯でイヴの胃袋に収まった。付け合わせの蒸し野菜しか残されて居ないケネスは一先ずブロッコリーを食し、余り野菜が好きで無いケネスは其の甘さに目を丸くした。
「美味しい。」
「野菜食べなきゃ駄目よ。」
「そうだな、そうし様。」
「あら、素直ね。」
「ペニス出されちゃ堪らんからな。」
ワインを飲むのを止めて迄イヴは笑った。
「ペニスは、アイヴァンの専門よ。」
「彼奴が犯人か、有難う、一緒に署に帰るよ。」
「でも良いけど、食べられるかもね。」
「おいおい、マジか?」
「あの子、ゲイなのよ。」
「一人で帰ろう…」
引き攣るケネスにイヴは笑った。
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