ウェストウッド通り
柔らかい店員の声が気恥ずかしい、自分かこんな店に用事があるのは人生で一度位だろうとケネスは高を括っていた。其の一度でも無い時に足を踏み入れるとは思っても見なかった。
「指輪ですか?」
時季も時季、男が一人でジュエリー店に来る等、婚約指輪を物色しに来るのが大半だ。
「今日は、違う…」
店員の問い掛けに上擦った声で返答する姿は、沈黙と視線だけで犯人を自供させる刑事の姿は無かった。
違うとは云ってみたが、なんせ生まれて此の方女に贈り物等した事が無い。何を買ったら良いのか判らない。素直に頷いた方が良かったか、然し無意味に高い指輪を買わされるのも嫌だった。
「彼女と、喧嘩したんだ…」
「嗚呼。でしたらイヤリングは如何ですか?」
「イヤリング…?嗚呼、イヤリング。」
「先週入荷したのが御座います。」
店員は一旦奥に引っ込み、ロイヤルブルーの布地に四つ程イヤリングを乗せて来た。確かに繊細で美しいのだが、どれもケネスの趣味で無く、同時に此れ等がイヴに似合うとも思えなかった。
一旦目を離した其の先に、黒いマネキンがパールのネックレスをして居た。
フラッシュバックした会話、黒いピアノが浮き上がり、ラ・カンパネラが流れた。
「アレ…」
店員は振り向いた。
「アレを呉れないか…」
初めてイヴの目を見た時の様に、ケネスは純白の珠に惹かれた。ケチ臭く小さい訳でも嫌味に大きい訳でも無い無数の珠を指先でなぞった。
指先がしっかりとイヴの曲線を覚えている、鼓膜が息遣いを覚えている、青い瞳の奥にしっかりとイヴの姿が浮かんだ。
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