ウェストウッド通り
「月一で羊腸買ってくけど、あんた、材料となる肉は買ってかないな。」
「え…?」
何気無い肉屋の店主の言葉にイヴの指先は冷えた。手に乗せられた羊腸が冷えているからで無いのははっきりし、何と云って誤魔化せば良いのかイヴは無表情で瞬きを繰り返した。其の顔は店主からすれば、此の親父何を云ってんだ、と侮蔑している様に映った。
「いや、別に良いんだけど、何を詰めて作ってんのかなって。」
「…魚と、野菜…」
「嗚呼、成る程な。」
「最初は擂り身だけをハンバーグみたく纏めて焼いてたんだけど、下手くそなのか結局ぐちゃぐちゃになって、で、面倒だから野菜も混ぜて…そしたら主人が、此れソーセージにしたら美味しいんじゃないかって云ったの。」
「出来た奥さんだな。」
店主は、本心でそう思って居た。イヴも釣られて笑うが、口の中は嫌と云う程乾いた。人を押し返す様にアーケードを抜けた。
初めて人を殺しても、こんな動揺は無かった。人を殺して動揺する人間は初めから殺す積もり等無いと云う心理だけを知り、全身が心臓になる程の緊張と動揺を知る事は無かった。
青白い顔で助手席に乗り込んで来たイヴにアイヴァンは辺りを眺め、外から見たらキスをしている様な格好で顔を近付けた。
「イヴ、如何したの。」
化粧をして居るから良かったもの、此れが化粧っ気無い状態だったら目も当てられなかっただろう、其れ程イヴの額は白く、唇は干上がっていた。
「イヴ?」
「何で羊腸だけ買うんだって云われた。」
普通に考えたら、羊腸だけ買う人間は珍しい。ソーセージを手作りするのは何とも思わないが、其れには決まって中身も一緒に買う。羊腸と中身を別々に買う人間も居ない事無いが、面倒臭さが勝るだろう。
最初は店主、肉を大量に貰った為だと考えて居た。然し毎月、四ヶ月続けて羊腸だけを買って行く。好奇心が勝ったのは云う迄も無い。
イヴの誤魔化しを聞いたアイヴァンは頷き乍ら顔を離し、ハンドルに顎を乗せた。
「今更買わないのも不自然だしな…」
「そうね…」
「大丈夫だよ、イヴ、大丈夫。」
アイヴァンの云う通り今更買わないのは明らかに不自然、其れに、ソーセージにするのには理由があった。
消化だ。
何も面倒なソーセージ等にせず、ミートパイにでもしたらイヴも楽で、然しそうなった場合、イヴが食べなければならない。
そんなのは御免だ。
ペニスを切り落としたのは良いが、目的果たされた後の其れは正直邪魔でしかなかった。
切り落としたペニスを無関係の男達に食べさせたら面白いんじゃないかしら。
其の思考からイヴはソーセージを作り始めた。
そう、最初の目的は消化だった。
目の前には容易く消化して呉れる人物が居る。アイヴァンの手から、客の口に入る。
人間丸々一体消化する訳では無い、100グラムにも満たない肉の塊。
「いざとなったら、僕が全部食べるから良いよ。」
ペニスは大好物だから。
アイヴァンの言葉にイヴは笑いを我慢した。
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