ウェストウッド通り
他に自宅があるのかと聞かれたら、答えはノー、正真正銘此処がロンドンの自宅で、他に家は無い、女の所に転がり込んで居る訳でも無い。
椅子さえない部屋の何処が自宅かと聞かれたら返答に困るが、生活には困らない。
年に一度来れば良い方。
そう、ロンドンには、此処しか無い。
此処にあるのは毛布と電話、そして、事件の資料。俺は此処で、壁に被害者の写真を貼り、床に資料をばら撒き、毛布の上で思考を回転させる。
唯其れだけ。
嗚呼そうだ、忘れていた。毛布と電話の他にキャンドルがある。明かりは其れだけ。
其の中で俺は被害者達に囲まれ、犯人を考える。
今回は、考える迄も無い、犯人はもう判っている。なのに逮捕しないのは、証拠が無いから。中世の魔女裁判じゃ無しに、疑わしいからと云う理由で逮捕は出来ない。今回の事件で誤認逮捕何かしてみろ、凄まじいバッシングが来る。
凶悪事件程、慎重で無ければならない。
思考を停止させる金属音、ゆっくりと薄暗い天井を視界に入れた。
「ラッピン捜査官、俺だ。」
「ハイ、デスタン刑事。」
ロンドンの此の電話を鳴らす人間等、彼しか居ない。進展を期待しての電話だろうが、生憎進展は無い。
「いい女だろう。」
「嗚呼。アメリカから来た甲斐があった。」
「中々に似合ってたぞ。」
彼の笑い声に身体を起こし、元から部屋に付いている鏡を見た。キャンドルの明かりでは不充分だが、其れでも髪の色は判った。
「此れって違法捜査じゃない?」
「だったら黙って、ロンドンからゲイ以外の男を絶滅させるのか?」
其の内イングランドからゲイ以外の男が消えると重たい声を出す。
ホモセクシャルしか残らない、其の未来はイングランドの出生率ゼロパーセント、其れはかなりの社会問題だが、彼に問題があるのだろうか。
「デスタン刑事は殺されないから大丈夫じゃないの。」
「冗談じゃない、見渡す限りイングランド女か?フランスに帰るよ。」
今度は俺が笑ってやった。
「確かに。同じに囲まれるなら、イングランド女よりパリジェンヌの方が良い。」
「お、判って呉れるか。」
「アメリカンって、ヨーロピアンに憧れがあるんだよ。」
「一応、イングランドもヨーロッパなんだが。寧ろヨーロッパの顔。」
「良いんだよ、イングランドなんか、地図から消えても。」
「世界からイングランドが消えるのと、あの女が此の世から消えるの、どっちが早いか…見物だな。」
「オーケー、大丈夫。無駄に髪を痛めた訳じゃない。」
「尻尾とペニス、期待してるぞ。」
無機質な機械音が鼓膜を抜け、頭に響く。今夜はもう誰にも邪魔をされたくない、受話器と一緒に床に寝た。
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