ウェストウッド通り


資料を眺めるヴァレリーは、唇に付けた人差し指を動かし乍ら目を細めた。

「案外単純だな。」

此処二ヶ月、ペニスの無い死体は発見されて居ない。晴れの日が無い訳では勿論無い、五夜程綺麗に月が見える日があった。
一夜目が一週間過ぎた頃、未だ発見されない死体に刑事達は首を捻った。遅くとも五日前後に今迄なら見付かって居た。此れが真冬なら納得出来たが、一週間も死体が放置されて居たら異臭苦情が半端では無い、アパートなら尚更だ。

「旅行にでも行ってるんですかね。」
「暫くは大人しいかもな。」

其の時刑事は首を捻ってみせたが、ヴァレリーの言葉通り、続けて二夜死体は発見されなかった。
ざわめきの中で響いた電話。

「デスタンだ。」
「ハロー、アメリカからハロー。」

四夜目が過ぎた頃、望んで居た電話が着た。

「うん、間違いないね。」
「有難う、捜査官。」

天気予報はあってもない様な存在で、ロンドンの住人は朝の霧の状態で大体の天気を予測する。例え太陽があっても濃霧であったら、其れは晴れとは云わない。昼迄の霧の状態で又夜を予測する。なので夕方辺りで霧が薄くなると男達は少し警戒する。
此れで一番被害被って居るのは本物の売春婦。
一年近く月夜の晩に起きて居るのだから、余程の酔っ払いしか客が居ない。幾ら金になるとは云え、酔っ払いの相手は面倒此の上無い、売春婦達からも嫌煙される、面倒臭さを取るか金を取るか…結局売春婦も人間であるから休業するのが大半だった。
問題は、四夜目。

「イヴ?」

ヴァレリーはあの店でイヴを見たのだ。不貞腐れた顔でピーナッツを弾き飛ばし、アイヴァンを困らせて居た。

「如何した、綺麗な顔が台無しだぞ。」
「ヘンリーが三日前から海に行ってるんだ。」
「可哀想に。」

そんな事は微塵も思って居ないがアイヴァンの手前適当に慰めの言葉を送り、カウンター越しにキスを交わした。一層膨れ面晒すイヴに笑いが漏れる。

「イヴにもしてやろうか。」
「結構です。」

そして五夜目が三日前に終わった。
今夜は酷い濃霧だった。

「冬が来るな、尋常じゃない。」
「やっぱり。今朝寒かったもん。」

ストーブには未だ早いだろうに、真冬になったら一体如何する積もりか、掌をストーブに翳すアイヴァンを一瞥し施錠した。

「何で鍵締めるの?」
「クローズにして於いた。」
「あ、悪いんだ。」
「好きだろう?悪い男…」
「大好き…」

本当に悪い男…。
イヴの囁きが聞こえた。




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