此れも仕事


昼食は、此方側と先方、別々になって居たのだが、恐竜好きの生徒に夏彦氏は引っ張られて居た。其れを遠目に確認した私達は休憩室に入り、其処に老師が居たので驚いた。
「夏彦は?」
「レックス。」
「嗚呼な。」
弥勒氏の言葉だけで全てを把握した老師は、どっちが子供なんだか、と笑って居た。
何時もなら旺盛な我が食欲、今日ばかりはあの邪悪な集団を前に失せて居た。なので、午後は私が器具の説明と発掘体験なのでトロトロと支度を始めた。弥勒氏も配り渡すキットの入ったダンボールを持ち、長テーブルに一つ一つ並べて行く。
「嗚呼…ッ、面倒臭いッ」
「耐えましょ、兄さん。」
皆無言でテーブルにキットを並べ、ふっと昼食の会場になって居るフロアを見ると、沢山の生徒に囲まれる夏彦氏を見た。
小学校の先生と云うよりは保育士に見える。私が記憶する限り、小学校の先生はこんなに周りを囲まれて居ない。此処は素直に、
嗚呼、ええ先生やな
と私は思って居たのだが、菩薩の尊顔が阿修羅に変貌して居た。終いには顔面左右から顔と、腕が四本出て来そうな勢いである。
「プテラノドンが一番好き。」
「御目が高い。プテラノドンのあの尖った顔、恐竜の中で一番男前だ、まるで俺の顎の様に尖って格好良い。」
「じゃ、先生の御先祖はプテラノドンだね。」
生徒の指摘に夏彦氏はぽかんとしたが、くつくつと笑い始めた。
此処からは生憎会話は聞こえない、けれど生徒が夏彦氏を慕う様子と、其れを受け入れる夏彦氏の様子ははっきりと判る。
「なんだよ…、前に僕が同じ事云ったら、うちの寺の墓にでも入るか?って云った癖に…」
何故此の距離で聞こえるのか、仏は全ての言葉を聞くとでも云うのか、いや然し、恐ろしい顔をする。弥勒氏一人で、此の生徒全員を殺せそうだ。
最後の一列を終えた時、ふっと背中に気配を知った。普段の鈍い私にはあり得ない事で、振り向くと少女が一人私を見上げて居た。
ぷっくりとした頬、不貞腐れた様に突き出る唇、二つに束ねた髪……似ていた。
生徒は幼い恭子にそっくりだった。
「どした?」
子供嫌いな私だが、第一印象が其れだったからかしゃがみ、少女の目線に顔を合わせた。
「ぷーぅ。」
「……は?」
其れだけ云うと少女は、自分のグループであろう集団に走った。リーダー格であろう少女、最悪な事に茜そっくりの美少女だった。
げんわるぅ……。
阿呆らし、と立ち上がり、背を向けた。そしたら又あの少女が又背後に立ち、私と目が合うと「ぷーぅ」と云って又戻った。リーダー格の美少女は口に手を当て、幹部らしき二人の少女達とクスクス笑う。
抑なんだ、ぷーぅ、とは。屁か。
関わるまいと背を向けるのだが、矢張り感じる気配。
いい加減、腹立って来た。
元から私は短気だ、其れが子供相手なのだから、二回も猶予与えただけ栄誉賞頂きたい。
振り向くが早いか私はにたにた…嗚呼此れも恭子そっくりだ、笑う少女の両肩をがしっと掴み、大概にせぇよ、と低く呻いた。此れには少女も驚いたらしく、うひ、と口角を痙攣させた。
「何やねん、さっきから。ええ加減にせんと、ど突くぞ。わいは子供が大嫌いなんや。」
怯えを見せるかと思ったが、少女は矢張り「ぷーぅ」と云い、グループに戻った。
いやだから、ほんま何やねん…。
さっぱり理解出来ない私に、菩薩の笑い声が聞こえる。
「女になると事鈍いね、八雲。」
「はい?」
「あの美少女、アレが本来だよ。」
「本来?」
「八雲の気を引きたいんだよ。」
柔軟な弥勒氏の視線がグループに注がれ、釣られて見た。取り巻きとこそこそ話す美少女は私と目が合うと小さく手を振った。はにかんで。
其れは昔茜が、姉に殴られやりようのない怒りと痛みに耐える私へ、物影から様子伺い、気付くと“私は味方だよ”という風にはにかみ、小さく手を振る行動に似ていた。
なんだ、顔の系統が同じなら、やる事も同じなのか。
「…興味無い。」
「だよね、興味持ったらペドフィリアだよ。」
顔を逸らされ、眉と手を落とす、此れも同じだった。
行って来て。
え、もうやだよ。ど突くって云われたもん。
聞こえたので、今度は私が出向いてやった。
私の腰程の背丈しかない少女達には、随分と威圧感ある男だと思う。現に美少女は怯えて居た。
「…お呼びですか、御嬢。」
膝を屈し、其の美少女だけに向いた。じっと、其の切れ長の目を見詰めた。
「何がお望みですか?」
見る見る美少女の目元と頬、立て続けに耳が赤く染まり、えへ、とはにかんだ。
えへ、ちゃうねん、はよなんか云え。
心の悪態とは裏腹に、老師に叩き込まれた営業スマイルで答えた。
「おんぶ、して欲しい…」
「あは、絶対嫌。」
美少女は不細工に顔を歪ませ、私の加虐心が揺さぶられた。
なんだ私は、不細工が好きなのか?
新たな己の性癖を知って仕舞い、少し落胆した。弥勒氏は声を殺し、笑って居る。
其処にあの美人教諭が何事かと現れたので、此れ幸いと、此の生徒におんぶをせがまれた、と報告した。教諭は溜息と共に眉間を摘み、済みません、と謝罪した。
「先生なら、おんぶしても構いませんけど。」
「え?」
「冗談ですよ。」
嗚呼、此の蛆虫を見る様な教諭の目、其れだけで私は満足だった。
弥勒氏の所に戻り、美少女グループを嗜める教諭を、お返しににやにや弥勒氏と二人で見てやった。
其処に、三十半ばと云った中堅教諭が、教諭に何やら云って言い始めた。
おお此れは、松山が涎垂らしてあの手この手で口説きそうな女では無いか。
私は携帯電話を取り出し、さも内カメラで弥勒氏と写真撮る風を装い、其の中堅教諭を盗撮した。
「八雲、ソッチ趣味?」
「違う、此れはわい用やないですわ。」
良い感じに盗撮出来たので、其の侭メールで送った。証拠となる写真を消して居る時松山から返信が着、グッジョブ八雲はん、と御礼を貰った。




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