遠征


考えた事は無かったが、此の家は広い。姉が死に、生家を潰した金だ建てた家。姉と過ごし、死んだ家で、一人で暮らすのには辛い物があった。だから、こんな誰も寄り付かない地に家を建てた。潰した金を渡しただけで、何も伝えておらず、余程金があったのか無駄に広い。一人の時も、娘が居た時も、広い等全く感じなかった筈が、今は無性に広く感じる。明かりの点いていない廊下の先は、見えない。
一体幾つ部屋があるのか、其れさえ拓也は把握出来ずに居た。
寝室以外に居ない井上に、こんな広い屋敷、如何しろと云うのか。建築士に一度聞きたい。
一つは、娘の残した絵が置いてある。自分の寝室、娘の部屋に寝室、開ける事は無いが、姉の部屋もそっくり其の侭作って居た。。
「て事は…把握してるだけで、四…?」
後何部屋あるのだろうと、家中の電気を点け、見て回る。驚いた。居間、応接室除き八つも部屋があった。二階には全く寄り付かず、二階に何部屋あるのか知らなかったのだ。
考える拓也。
「潰すかな。」
明日から自分は遠征に行く。明後日には死ぬかも知れないのに、こんな家を残して於いても意味は無い。
姉の写真を触り、笑う。
「ねぇ、姉さん。そっちに行った時は、笑顔で迎えて。だから、写真は置いて行くね。愛してるよ、姉さん。」
香る梔子。其の写真に拓也は口付け、昔の様に抱き締め眠りに就いた。




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