修羅の断頭 仏の登壇


佐官隊、全滅。
其の事実に和臣は業を煮やした。長年傍に居た大佐が、自分を庇い、死んだ。
最期の言葉が耳から離れないのに、何を云ったか等、覚えて居ない。
揺らぐ右袖。
和臣の心みたく寂しく揺れ、龍太郎は唯見て居た。
「如何思う。」
和臣の言葉に視線を向けた。
「情けないだろう…」
自嘲し、無い右腕を触る。
「俺は、終わりだな。」
其の言葉に龍太郎は目を閉じた。
「いいえ。貴方には未だ、すべき事があります。」
何があると云うのか鼻で笑い、紫煙を上げた。
こんな片腕で、何が出来るか。馨の様に頭がある訳でも無く、所詮は父親の恩恵。木島が居なければ、元帥として居られなかった。木島の息子だからこそ座れた椅子。
始めから、始めから自分に力は無かった。内部の反発を見て見ぬ振りしたのも、其れ等全てを従わせる力を持ち合わせて居ないのを認識して居たから。
「大佐が居なく為ったなぁ…如何仕様。」
唯一自分に笑い掛け、笑わせて呉れた人物。武器が無く為るより、痛手だった。
微かに聞こえる足音。和臣にしか判らず、動いた和臣を龍太郎は追った。机に置いある帽子を持ち、龍太郎に被せると、緩く笑った。
「此れは、御前に遣る。」
どくんと、血が駆け巡った。
「後、此の元帥旗。奇麗だろう。」
其の言葉が何を意味するか、身体が震えた。
「其れと、部屋に置いてある、在の狼。遣るよ。御前、娘が死んだらしいからな。」
「木島さん…あの…其れは…」
笑う和臣。
「後は頼むぞ。…本郷元帥。」
胸に付いて居た章を毟り取り、龍太郎の胸に押し付けた。無数の足音に対した和臣の殺気が判り、渡された章を握り締めた。
「帝國軍木島元帥、此処は我が軍が包囲した。」
現れた敵軍に、龍太郎は息を飲んだ。捕虜に為った見張りの部下、頭には銃口が向けられて居た。
「済みません…木島元帥…。迂闊でした…こんな兵如きに…」
「本郷さん…」
死を、覚悟した。
抜刀隊の筈が、其の刀さえ無い。折れた軍刀で銃に勝てるか。圧倒的な力の差、情けない話だが力が抜け、震える。なのに和臣は笑って居た。
「其奴等を離せ。」
今迄は飾りだった軍刀を静かに抜き、先頭に立つ男に付けた。血を浴びた事の無い銀色は、やけに輝いて居た。
「離しても良いけれ、条件は?女、食糧、武器。何でも良いよ。」
静かに笑う和臣。響く靴音。
「俺の命と引き換えだ。」
へえと男は口角を上げ、睨み付ける目を見た。
「俺の命は呉れて遣る。だから其奴等に手は出すな。そして、去れ。降伏するかは、此奴等が決める。」
修羅の目。其の威圧感に、木島を感じた。
「大日本帝國はこんな事で滅びはせんっ、貴様等亜米利加如きに潰されて堪るかっ」
己を変えた修羅道。
いざ、参らん。




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