欲を司った
足元が揺らぐ。日本に来る迄にハロルドの体調は戻る事は結局無く、地に足を着けている筈なのに立って居る感覚が無かった。
「マーシャル。あの…矢張り戻る可きだったんです。」
何度も英吉利に戻ろうと中将は云ったが、其の都度ハロルドは「日本に着く頃には良く為る」の一点張りで、然し体調は悪く為る一方だった。
「嗚呼、日本だ…」
ハロルドは呟き、景色を眺めた。何故だか、少し気分も和らいだ気がした。
「ジープを下ろして。陸軍基地に向かう。」
指示を出すハロルドに中将は首を振った。
「駄目です、二三日休まれて下さい。日本側は、元帥が来る迄待つと…」
「少し、黙ろうか。」
静かだが、何時に無く厳しい声に、中将は不本意乍らジープを陸に下ろした。
蝉の声が、酷く心地良い。夏の香りが鼻を抜け、ハロルドは目を瞑り、深呼吸を繰り返した。そうすると不思議な事に、体調が良く為って行った。あれは夢で、夢見が悪かった、其れだけだと、自分に云い聞かせた。だから、船の上では体調が戻らなかった。ずっと、眠っていたから。
そう、自分に強く、云い聞かせた。
「ミスターに会えば…良く為るさ…」
呟き、ハロルドは目を閉じた。
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