カルキをソーダで割ってみた、特に理由はありません
医師団から説明を受けた宗一は、残る医師達に施設の説明をする様侑徒に云った。自分の革靴とは違う、金具の入る無数のブームの靴音は病院には似つかわしく無い。軍服も、出来れば止めて欲しいが無理なので見ない事に努めた。一通り説明を受けた医師団は宗一に挨拶を済ますと、数人を残し東京に帰って行った。在の大人数は一体何だったんだと今更侑徒は首を捻り、宗一から渡されたカルテを確認し薬を調合した。
恵御には絶対二階に近付くなと宗一は念を押し、窶れた時恵の姿に珠子は愕然とした。独逸に戻る迄の此の間、時一は一度も時恵には会わなかった。理由が痛い程判る珠子と宗一は何も云わず、又時一が居る事も云わず、時恵は知らなかった。
互いに姿が変わった。其れを見せるのは両者にとって酷だろうと、二人の意見は合致した。
何故珠子が日本に居るか判らない時恵は理由を聞き、珠子は父の容態が芳しく無いからと嘘を吐いた。
「恵御、驚く程大きくなってる。」
「まあ。」
龍太郎の知らせに時恵は相変わらず大きな目をくるりとさせ、龍太郎の頬を触った。
「私が居なくて、龍太郎様大丈夫ですの?」
茶化す。
「其れは…聞かないでくれ。」
自分が居なく共せつ子が居るから大丈夫だろうと時恵は笑い、溜息を吐いた龍太郎は唇を重ねた。此れで自分が結核になっても構わない、寧ろ同じ苦しみで居様という風に龍太郎は唇を重ね続けた。
「御気丈に、龍太郎様。」
「嗚呼。」
時恵は笑い、龍太郎の身体を抱き締めた。来月に又来ると、身体を離した龍太郎は部屋から出、廊下を軋ませた。遠ざかる其れを時恵は見続け、完全に音が消えると我慢していた咳をし始めた。背中を摩ろうとする珠子を遠避け、危ないから外にと云われ、泣く泣く珠子は部屋を出た。廊下に響く時恵の咳に、珠子は唇を噛む事しか出来無かった。
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