ソメイヨシノの儚さを


初めて彼に殴られたのは十七の時で、何故自分が殴られたのか理解出来ない私は暫く放心していた。其れを良い事に彼はもう一度私を殴り、床に伸びた私の上に乗り掛かった。振り翳された腕に私は自分の腕で防御をし、其れに彼は笑った。
本当に、楽しそうに笑った。
「御前、抵抗出来る立場か?」
詰まり彼は、こう云いたい。
俺に抵抗すれば俺は御前を見捨てる、此の誰も居ない独逸で一人で生きろ。抵抗し無ければ俺は御前を医者にする。
其れは、野垂れ死にを意味した。
十七の人間が、日本人が、此の地で一体何が出来様か。
「賢い御前なら、判るだろう…?」
人を助ける彼の手は、私には、私を痛めつけるだけの手でしかなかった。医者として最高の位置に居る筈の彼は、私の前では、人間の最低位置に居た。




*prev|3/6|next#
T-ss