楼主の消えた黒猫楼


蝋燭のほのかな明かりを挟み、二人は互いの顔を見ていた。
部屋に入り、暫くした後新は真去に別れ様と云った。其れから二人は無言で、もう何時間経っただろうか。理由の聞けない真去は涙も出ず、床を見ていた。時折、折の奇声にも似た泣き声が聞こえる。其の度、変わる変わる新に助けを求めに来たが、新は放っておけと部屋から出る事は無かった。
何度目かの声の後、藤波の声が襖から響いた。
「新はん。」
「何?」
「公爵、見えはりましたえ。どないします?」
其の言葉に新は漸く立ち上がり、真去を見る事無く部屋を出た。
暗い楼の中に新の足音が響き、座っている雄一の姿を見ると其の侭土下座をした。行き成りそんな事をされた雄一は狼狽し、又聞こえた折の声に新は強請った。
「浮雲…?」
「公爵。」
部屋に行こうとした雄一の腕を掴み、新は頼み込んだ。
「折を、折を傍に置いてやってくれませんか。」
「新?」
「浮雲を傍に置けと、頼んで居る訳ではありません。楼主では無く弟として、兄を…木島折を神楽坂様の傍に置いてやって下さいませんか。御願い致します。」
立ちはだかる様に土下座をする新の姿に雄一は何と答えて良いか判らなかった。
「神楽坂様以外に、頼めないのです。其れ以外、私は安心出来ません。」
全く顔を上げない新の背中を触り、浮雲が心配だから又後で話そうと、部屋に向かった。
「御願い、致します…」
闇に消えた新の声。雄一の背中に、悪寒が走った。




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