御賞味下さいまし
視線を向けたバーテンは、薄暗い其の目に一瞬の光を宿した。柔らかい絨毯、ヒールを履いて来たのは失敗だったかな、と雄一の腕に腕を絡めた。
「暗くて…」
腕を絡めたのは其の所為よと弁解図る雪子に雄一は何も云わず、奥のボックス席に腰を落とした。
大半は目論み通り部屋に居るのだろう、数組のカップルが居るばかりで静かだ。
来た時雄一は“二”の形を指で作り、此れが注文だった。指示通りバーテンはウィスキー二杯を席に置いた。
「ウィスキーで良かったですか?」
「何でも良いのよ。」
此れは、“酒なら”なのか“貴方と飲めるなら”なのか、雪子の真意は薄暗い照明では読み取れ無かった。
見下ろす街は、寝る気配は無い。二人は大した会話もせず、景色を肴に酒を楽しんだ。ほろ苦さが舌を支配する。ネオンが夜の暗さを支配するのに似て居た。
二時間もすると、雄一の頭は回り始めた。膝に腕を乗せ、前屈みに為る。其れでも雪子は来た時と変わらず、奇麗に膝を付けた侭背筋を伸ばし、景色を見下ろして居た。
「強過ぎます…雪子さん…」
量からして膝位離しても良さそうだが、其の奥に潜む淫靡な世界は雄一の思惑を受け入れ無いかの様に閉じられて居る。
「そうかしら?私も少し、酔ってますよ。ネオンがぼやけて、益々奇麗。」
「貴女の方が奇麗ですけどね…」
スマートさは如何へやら、此の侭雪子に付き合って居れば店から出るのも危うく為る。雪子と酒は、未だ未だ楽しみたい。然し、貫禄の違いか、雪子にして見れば未だ未だ雛っ子、子供の自分が相手出来る筈が無い。折を相手にして居る訳では無いのだ。
家に帰り、続きをしても良いが、何だか癪に触る。だったら初めから家で飲んで居た。
違った空間で好いた女を味わいたい………男なら誰しもそう思うだろう。
家に居る時は如何遣っても雪子は“母親”に為って仕舞うから。
「雄一さん、酔ってらっしゃるの?」
「はい…」
「なら未だ大丈夫ね。」
云って雪子は、ワインを注文した。
冗談では無い、此処でワイン等入れば確実に酔う。すると如何だ、計画がパァに為って仕舞う。部屋に行くのが車に向かって、後は寝て仕舞う。
其れだけは回避し無ければ為らない。
雄一はやんわり雪子の手を握り、景色を横目に入れた。
「場所を、変えませんか?」
前を向いて居た睫毛は雄一に向き、静かに置かれたグラス、雪子だけが手にした。
「其れは家?」
「いいえ。」
白ワインの味がウィスキーの味を薄くさす。変化した口の中、楽しむ様に舌を出した。
「連れて行って下さる?」
「勿論。」
雄一にワインの味は判らなかった。此れから知るであろう雪子の味を想像した。
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