歪んだ晩餐会


嫌な空模様だった。予測通り、女が帰る頃には、空は稲光を蓄え、周りを一切塞いだ。こんな中歩いて帰るのかと思うと憂鬱になる。人間とてこんなに嫌なのだから馬は当然で、馬車で帰れる訳は無かった。
溜息吐いた女に、彼は云った。
「母上に聞いて参りますので、今日はどうぞ、御泊まり下さい。」
「え?」
そんな申し訳無いと、唯でさえ彼の役に立たない人間に、以上の厄介は居た堪れない。
女は彼の腕を掴み首を振る。彼は云う。
「勘違い為さらないで下さい。ワタクシは貴女の為に申している訳では無く、あくまで自分の為です。」
「貴方の?」
「風邪を引かれ、被害被るのはワタクシです。変わりを捜し、まあ職を無くしたいのならどうぞ、御帰り下さい。」
ガラガラと引き戸を開け、真黒く冷気含む雷雨は、容赦無く玄関を濡らした。女は引き攣り、無言でドアーを閉めた。
「御好意受け取らせて頂きます。」
「初めからそう素直にして於けば良いものを。全く全く。」
見下す其の言葉とは反対に、彼の顔は、一層端整さを際立たせる笑顔を浮かばせてた。




*prev|2/4|next#
T-ss