シロとハイイロ
「久し振りだな。」
昔見た狼が、和臣の座っていた椅子に座っている。頭を撫でられたが良い思いはせず、嫌悪が現れた。
「木島さんがな、君を俺に預けるそうだ。」
本当に、和臣は帰ってこないのだと剥製は知り、目を濡らした。其の濡れた目に本郷は同じ様に目を濡らした。
「白蓮も、同じ様に剥製に出来たら良かったのに…」
呟き、涙を零した。
――白蓮?
「俺の、娘だ。君とは異なる真白な毛並みを持つ、美しい狼だった…」
嗚呼あの狼か、と剥製は思い出し、本郷を見詰めた。
突いていた膝から力が抜け、本郷は床に座り込み嗚咽を漏らした。
「君と同じ様に綺麗に死んでくれたら、どれ程良かったか…っ。剥製にして、ずっと傍に置いておけるのに…白蓮…白蓮…」
自分が主人を亡くしたのと同じに、本郷も娘を亡くした。
何故、此の椅子に座る人間は、皆狼の様な目を持ち、孤独と戦っているのだろう。
「剥製に出来たら、時恵の気持ちも少しは和らぐ筈なのに…」
腫れた目を剥製に向け、本郷は椅子に座った。小さく椅子を揺らし紫煙を上げ、掠れた声で自嘲しながら云った。
「戦争等しなければ…白蓮も木島さんも、死なずに済んだのに…」
大事なものを、全て奪った戦争。此の時初めて剥製は、和臣に対する忠誠心を、薄くさせた。
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