汝、ヴィクトリア
少女の母は、娼婦だった。
そして、ベッキーは、ヴィッキーを産むつもりは無かった。では何故産んだのかと聞けば、答えはとてもシンプルだった。
妊娠していると、妊娠しない為、客が喜ぶ。唯其れだけだった。
流石に、出始めた腹では喜ぶ客も少なくなり、ベッキーは計算を間違えた重大さに、人生の絶望を知った。
堕胎出来る日数を、間違えていた。
計算の狂ったベッキーには、産む事しか選択に残されておらず。神からの授かりものではなく、此れは神からの罰だと思った。
ベッキーは其の時、18歳であった。
父親も判らず、一人で育てる事等出来る訳は無いと医者に懇願したが、堕胎其のものが神に背く行為だと、相手にはして貰えなかった。
ベッキーは、一人で住んでいる訳ではなく、同じ娼婦と数人で暮らしていた。広い家を借り、其々気侭に暮らしている。勿論全員堕胎を経験し、其の中に子を生んだ女も居れば、金持ちを掴まえ胎児と共に出て行った女もいる。約束事は、家に客を連れ込まない、家事の当番はきちんと守る、迷惑を掛けない、一日の売り上げの1/3を必ずリビングにある箱に入れる、言い出せば切りが無い程約束事はあるが、それでもベッキーや他の女達は楽しく生活をしていた。
稼ぎ頭のベッキーの妊娠は、其の家を揺るがした。医者から堕胎は出来ないと云われたベッキーに、女達は腹を蹴ったり水を掛けたりとありとあらゆる手を使ったが、後のヴィッキーが流れる事は無かった。
ベッキーが客を余り取れなくなり、日に日に腹が大きくなるに連れ、女達は恐怖を感じた。
そうして、子供を持っている女が、頭を抱え云った。
「刺す以外の方法は無い。」
女には子供が居る、其れがどんなに大変か。娼婦で子持ちで、其れで結婚等出来る訳は無い。だから、ベッキーには子供を産んで欲しくない。自分と同じ気持ちはさせたくない、絶対に流れる方法は其れしかないと、女はキッチンに向かった。
「一寸待って、本気!?」
包丁を手に持った女に、他の女が聞く。
「止めてよ!其れでベッキーが死んだら責任取れるの!?」
「子供が居ないあんた達に云われたくないわよ!」
「もう諦め様よ!」
「子供を育てるのがどれ程大変と思ってんのよ!」
「エイダの子供みたいに、皆で育てたら良いじゃん!」
「包丁捨ててよ!危ないでしょう!」
「惨めな思いをするのは結局子供よ!?娼婦の子供ってだけで、どれだけあたしの子供が惨めな思いしてると思ってんのよ!」
「でも刺すのは止め様よ!」
「じゃあ他に如何しろって!?考えあるの!?」
「無いけど!無いけど止め様よ!」
10分程女達は言い争い、包丁は元の場所に戻れされた。言い争っている其の間ベッキーは、自分が仲間から刺されるかもしれないというのにまるで他人事の様に傍観していた。
流す事が出来ないと知ってから、ベッキーの精神状態はまともでは無くなっていた。
大きくなったら好きな人と結婚する、そんな当たり前の夢を持っていた筈なのに、働く事を嫌い、一番儲ける娼婦という道を選んだ自分。其れに天罰が下った。
だからせめて、子供だけは神に愛される様にと、黄金期を作り上げた女王の名前を生まれた子供に付けた。
神に愛されると同時に、自分も愛せる様に願いを込めて。
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