汝、琥珀


「やあ、御嬢さん。」

其の笑顔に、あたしは惹かれた。どちらが最初に惚れたかは判らない。あたし達は確かに惹かれ合った。
あたしは十二歳で彼は十九歳の若い海軍元帥だった。
惹かれ合って、けれど互いに其の気持ちは心の中に納めていた。立場が余りに違い過ぎる。あたしは彼の嫌う陸軍の娘。時折会うだけで、彼からもそしてあたしからも、好き、という言葉は一切出なかった。
なのに、想い合った時間が長過ぎた。
十五の時、初めてキスをされた。挨拶でする様なものでは無く、男と女がする、柔らかなキス。
ダディとマミィがしていた、行為。
其れに絆されたあたしは、子供だった。他人が認める馬鹿さ加減を、何故あたしは一瞬でも思わなかったのだろう。
彼があたしと結婚したいとダディに云ったのは、翌日だった。
ダディを泣かせて迄、あたしは彼と結婚した。彼となら、出来ると思った。
ダディとマミィの様な、素敵な愛を作れると。
ダディがマミィを心で愛した時間と、彼があたしを愛した時間は、三年と、全く同じだったから。あたしは錯覚してしまったのよ。




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