亭主関白と嬶天下


「加納様は、亭主関白の様ですわ。」
時恵から聞かされた事に俺は、暫く考えた。まあ、あの加納さんならそうだろうな。何せあの加納家の息子だ。人に尽くして貰う事しか知らないのだろう。そうなると、同様に、拓也から甘やかされた琥珀は苦労しているだろうな。
「琥珀も可哀相な所に嫁いだものだ。」
「家は、如何かしら。」
大きな目をくるりと回し、唇を突き出す。嗚呼、此の顔が世界で一番可愛いと俺は思う。
「俺は、関白か?」
「いいえ。」
「なら違う。」
なら家は何と云うのだろう。主導権は全て此の魔王である時恵が握っている。そうなると…
「嬶天…」
怖っ。余りの恐ろしさに途中で言葉を飲み込んだ。
「嬶…何ですの?」
「いや…何でも無い…」
此の、絶対魔王制は崩れる事は無いだろうな。恐ろしくて崩せやしない。亭主関白にでもなってみろ。戦争が起きるぞ。血を見るぞ。
「亭主関白、なあ…」
自分の親父は如何だっただろう。んー…うん。母さんの方が強かった。父さんは浮気をする度、竹刀で滅多打ちにされていた。あの、ダンダラ模様の羽織を着て居た父さんが、だ。そうして何時も母さんは云っていた。「こんな男になるんじゃない」と。
いやあ、あの時の父さん程情けない生き物は居なかった。だから俺はそんな男にならない様に、時恵だけを愛している。…怖いからではないぞ。魔王が怖いからではないぞ。
「龍太郎様は…」
「ん?」
「何時迄経っても御妾さんを拵えませんわね。」
拵えて欲しいのか、時恵。拵えさせて俺を如何する。殴る蹴るの暴行を加えるのか?俺にそんな気は毛頭無く、此れからも別に要らない。抑、妾の定義とは何だ?必ず作らなければいけないものなのか?確かに力のある男は当然の様に、其の権力の象徴であるが如く拵えるが、其れは我儘に過ぎやしないか?妻を泣かせて楽しいのか?
「拵えたら如何する。」
「しばき上げますわ。」
笑顔で云われても困るんだよな。
「抑俺は。」
酒も飲まない、博打もしない、女遊びもしない。其れの何処が楽しいのかと一度聞かれた事があるが、困りはしないので別に良い。
「性欲自体が余り無いんだぞ。其れで妾を拵えて、如何しろと。」
おお。我乍ら良い事を云った。性的な事に興味関心が無い俺に、妾を作れという方が可笑しい。
「龍太郎様、淡白ですものね。亭主淡白。」
巧い。山田君、座布団を時恵にやってくれ。三枚だ。
一度、拓也みたく、濃厚に生きてみたいものだ。無理な話なんだがな。




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