おぜうさんと本郷家


久し振りに見た実家。横の空き地に目を向けた龍太郎は一瞬影を落とした。一人顔を横に向ける龍太郎、そんな龍太郎に気付かず、時恵は家の大きさに瞬きを繰り返していた。中流家庭とは聞いていたが、道場を所有する龍太郎の家は、ぐるりと塀で囲まれ其の広さは凄い。
「大きい…」
小さい事は考えていなかったが、此処迄大きいとは思わなかった。在の邸で過ごしておいて何を云うかと龍太郎は笑い、今、此処辺りで一番大きい家だと云った。
「今?」
「昔は二番目でした。」
云って横の空き地を見る。家が三軒程建つのでは無いかと思う程其の空き地は広く、豪邸を思わせた。其の空き地は今、子供達の良い遊び場になっている。
木の門を叩き、龍太郎は声を出した。暫くすると中から声が聞こえ、時恵は緊張で帯を触った。
一体どんな人であろうか。息子は母親に似ると云うから、きっと美人なのだろう。
「母さん、龍太郎です。」
年月を感じさせる門が何とも云えない音を出し、小さく開かれた隙間から強い視線を知る。吊り上がってはいないが切れ長で、鋭い力を持つ母親の目は、龍太郎を彷彿させた。母親で此の目力。父親はもっと凄いのだろうと、時恵は息を飲んだ。
隙間から見えた目は殺気を感じさせたが、完全に門から姿を出した母親からは柔らかさを感じた。切れ長の目は見間違いだったかと思う程優しさを宿し、笑っている。笑う顔は、そう、時恵と同じ雰囲気を持っていた。
母親は時恵をじっと見、其の侭龍太郎に流し、背中を叩いた。
「流石は私の息子!木島の娘を掴まえる何ざ、憎いねぇ。」
母親の力強さに龍太郎は噎せ、はぁはぁと溜息混じりに数回頷く。気さくな母親の態度に時恵は安堵し、手土産を渡した。
「別に要らないけどねえ。」
「御口に合えば宜しいのですが…」
「在の人は何でも食べるよ。腐ってなけりゃ。」
「そうですか?腐っていても平気で食べそうですが。」
「…嗚呼そうだ。一回腐った煮物食べたな。馬鹿あんた、其れ腐ってんだよって云ったら、そうかって別に腹痛起こさ無かったから構わないなって思ったわ。」
頷く母親。何と強靭な臓器の持ち主だろう。龍太郎が何でも食べるのは、父親譲りだと良く判った。
時恵は薄く笑い、なら此れも平気に違いないと母親の後ろを歩いた。




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