サーカス
「元帥命令ですからね。」
笑顔でクラウスに云われ、ヨーゼフは崩れ落ちた。
「私も行くよ、勿論。」
冷たい蛇の目は何時に無く光って居る。
「俺も行く。象が見たい。」
「へえ…っ。象が出るのっ?象は良いね。知的で利口で、大好きだ。」
「皆、仕事しよう…」
男三人が意気揚々とサーカスを見ると云い出した。総統閣下も見たかったらしいのだが、如何も其の日迄に帰って来れないそうで、息子のクラウスに見物を指示した。
面白く無いのはヨーゼフだ。妻に平手打ちを食らって迄断固として行かないと云った筈が、“命令”であっさりと行く羽目になった。昨日の痛みを思い出し、心迄痛くなった。
「独逸は冷たい。寒い…」
頬を押さえ俯くヨーゼフを余所に三人はサーカス話に盛り上がる。象等はっきり云ってヨーゼフは嫌いだ。鼻が長いのはまあ許そう。足は太い、皮膚の色は汚い、図体はでかい癖に鼠の様な細い尻尾。なのに円らな瞳が気に食わない。鳴き声等ぱおんと来る。
「ぱおんって。ぱおおんっ」
「在の鳴き声は可愛いね。良く聞こえる。」
「可愛いっ。はっ、可愛いっ」
可愛いと云うルートヴィヒにヨーゼフは益々理解に苦しみ、頭を抱えた。
此の時は未だルートヴィヒの耳の件を知らないヨーゼフはすんなり流したが、ハンスは少し驚いた様に目を見開き、ルートヴィヒに身体を向けると口だけ動かし聞いた。
「判るのか?」
「あんなに大きいならね。其れに凄く高くて和音だから、オーケストラに似ているね。」
納得したハンスは小さく頷き、奇怪に動くヨーゼフを眺めた。
「俺の象も鳴らしてやろうか。」
一瞬にしてヨーゼフの動きは止まり、軽蔑孕む目で口元を隠した。
「最低…」
「少しは乗れよ…」
「ええ…?ハンスに?もう乗らないよ…」
猥談は嫌いだと云った筈が同じレヴェルの言葉を返すヨーゼフにクラウスは笑いを必死に堪えた。ルートヴィヒに至っては嫌いな方面の会話に頭痛を覚え、会話を見ない様に目を隠した。折角可愛い象を頭に思い浮かべて居たのに、見事ハンスに砕かれた。
此れだから同性愛者は、とクラウスの手前嫌悪剥き出しの溜息を吐くだけに留めた。
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