サーカス
「楽しいですか…?」
皆さん、と時一は帽子を目深に被り、ステージが見えない様に俯いた侭聞いた。初めて見るサーカスに珠子は興奮し、目を輝かせて居る。二階の特等席に居るのだが、珠子が身を乗り出す為ハンスとロッテは、そう高さは無いが落ちれば大事になるのでサーカス所では無い。
「何が面白いんだよ…。ライオンが火の輪潜ってるだけだろう…」
何が凄く、喚声を上げる理由が判らない。自分の横でぶつぶつ床に向かって文句垂れる時一にクラウスは視線を流した。
時一の横には、二階から珠子が落ちるのを必死に阻止するハンス、身を乗り出しステージに食い入る珠子、そして珠子の足をしゃがんで固定するロッテ。ルートヴィヒは、未だ象が出て居ない為寝て居る。
「詰まらない?」
「ええ。」
「Es glёttet mit Kuβ?」
ステージを見た侭云うクラウスに視線を向けた。
「嫌ですよ。」
珠子が横に居ると云うのもあるが、そんな気分では無い。クラウスからキス等要らない。
「家に帰りたいです。」
命令でも、一刻も早く此の場から居なくなりたかった。キスでもし様か、と誘う位なら、命令で、家に帰れ、とでも云って欲しい。そうしたら其の命令を実行するのにと、鼻先にクラウスの息を感じた。
瞬間ルートヴィヒが椅子から立ち上がり、珠子に向いた。
「来たっ、来た来た来たっ」
「何がっ?」
ルートヴィヒが象の鳴き声を真似たと同時に、象が高々と鼻を鳴らした。
「落ちるだろうっ、馬鹿っ」
珠子とロッテが間に居るにも関わらず、ハンスは身体を前進させルートヴィヒの身体を掴んだ。間に挟まれたロッテは蛙が潰れた様な声を出し、其れでも必死に珠子が落ち無い様足を掴み続けた。
「ヨーゼフっ、象だよっ。象っ。可愛いねっ」
「そうですね。」
ふっと交わされたキスにクラウスは鼻で笑い、玉乗りをする象に視線を向けた。
巨大を器用に玉に乗せ、観客を沸かせる。首にはフリルとリボンが付いて居る。
「…………可愛いかな…?」
クラウスは首を傾げ、先程見たライオンの方が愛らしいと感じた。
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