Zellen
此れが結婚生活というものなのかと、単調な刺激の無い生活を知る。日本に居ても同じ事だったかも知れない。
私が変わらなければ、物事は変わらない。知っているが、私には満足だった。
彼が居て、私が居て、其れがあれば良い。充分に愛を感じる。其れだけで良い。刺激の無い生活でも、彼の愛があれば私は何も望まなかった。
珍しく七時を回っても彼は帰って来なかった。一体如何したのだろうと心配し、テーブルに並ぶ食器を睨んだ。一人では到底食事をする気になれず、作った料理を捨てた。
九時になっても彼は帰宅せず、本気で心配になってきた。此の二ヶ月間、彼が一度も七時過ぎに帰って来た事は無いのだ。探しに行こうかとも思ったが、もし入れ違いになり、彼が心配したれ、私は其れの方が嫌だ。私は未だ一度も、夜道を歩いた事が無い。
だから、目下で見る月の明かりが、どんなに美しいかを、私は知らない。大きさも知らない。月に模様がある等、私は知らなかった。教えてくれたのは、全て彼だった。
月の美しさも、愛の美しさも、人間の面白さも、独逸語も、全て、全て彼が教えてくれた。
なのに、私は彼に何も教える事が出来ない。
寝顔さえ、私は彼に教える事が出来ないのだ。
不満だあるのは、其処だけだった。
十時を回り、規則正しい私の身体は、時計の針が十時を過ぎたのを見ると、勝手に閉じた。彼と同じ様に、テーブルに突っ伏して。
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