切り取られた風景(中)
十時過ぎたと云うのに、話し声が聞こえた。君子は精神安定剤と睡眠薬を連用し、どっぷり寝て居る。身体に負担掛かるから止めや、と叔父は云うが、使わせる様仕向けたのは誰だと云わんばかりに叔父の言葉を無視して居た。叔父には中々此れが有難かった。
寝室から出た叔父は声のする方に向かい、電話の前で膝抱え座る侑徒を見付けた。
「其れ、悪いん自分ちゃうの。」
侑徒が電話をする相手等、世界に一人、隆臣である。其れ以外誰が居る、侑徒に友達は居ないのだから。
『俺は違うって云ったんだよ。』
「廉太郎はんはそう捉えはらんのと違う?」
『そう、そう何だよ。馬鹿廉太郎。』
廉太郎と隆臣、喧嘩をしたと云う。其の愚痴を聞かされる侑徒は少し呆れて居た。何でも、車を購入するに当たって、一番大事なのは価格かフォルムか、で喧嘩と云う全く下らない話なのである。廉太郎は価格、隆臣はフォルム、中間取れば良いじゃないかと侑徒は投げ遣りだ。
安くても見た目が悪かったら乗りたく無い。金の無駄じゃないか、京都人はケチ。車に位金使え。
見た目ばっかべかべかで中身はすっからかんのあんぽんたん、流石は見た目ばっかよぅ気にしはる東京の御人やなあ。消防車乗っとりな。
此れで喧嘩に発展したと云う。因み“消防車”と云うのは、隆臣が欲しがる車が赤いから廉太郎が茶化した。消防車を欲しがって居る訳では無い。
余りの下らなさに欠伸が出る。適当に相槌、中間でええわ中間、と繰り返す。でも消防車はあかんと云った。
非常に詰まらなそうな侑徒だが、時折見せる笑みに叔父は歯軋りをした。
大事に大事にして来た侑徒、其れを行き成り横からぽっと表れた東京人に攫われる。
腕時計を見た侑徒が「ほんなら切るわ」と云ったので、慌てて寝室に戻った。寝室では相変わらず君子が眉間に皺寄せ寝て居る。
『今度は?』
「何が?」
『何時会えるの?』
「気ぃ向いたらな。」
『明日は、気ぃ向かない?』
一寸冷たい女を誘う男の様に、隆臣の口は動く。
「煩い、奢り通しやわ。」
『だったら俺が出す。』
だからねえ、良いでしょう?と、横に居れば撓垂れ掛かってそうな隆臣の口調、完全な紐口調である。
嫌、と云うのは簡単だが、云ったら云ったで、ねえんねえんとしつこいのは判って居た。無言の侑徒に隆臣は「一時に在の喫茶店ね」「御休み」と、電話を切った。自分の要望が叶えば後はあっさり、侑徒の挨拶も聞かず切れた。通話終了音に向かい侑徒は「御休み為さい」、静かに受話器を置いた。
侑徒の部屋は一階に設けられて居るので、突っ切り、洗面所で顔を洗った。階段を下りる音に侑徒は気付き、下り切った叔父を見た。叔父は偶々を装い「何や、未だ起きてたんか?」と、台所にある棚から酒を取った。
飲んで寝て仕舞おうと、離れつつある侑徒を寂しんだ。叔父の背中は暗いのもあるが、物悲しそうに丸まり悲壮に溢れ、其の背中に侑徒は触れた。
「叔父さん。」
「何や?」
抱き締められた叔父は酒の味が判らなく為り、其れでも飲んだ。
「何や、侑徒からこうして来るて、珍しいやないか。」
向いた叔父の口にキッスをし、離すと肩に頭を乗せた。何時に無く甘えて来る侑徒に如何した物かと、グラスを空にした。
「侑徒、侑徒…。ほんま可愛え…」
叔父の舌の動きに息を殺し、ちょぉほんま黙って呉れへんかな、枕元の明かりを見た。隆臣の部屋にあったステンドグラスランプで、幻想的な色、光加減に魅力された。行く度行く度、部屋を暗くして点けて呉れと侑徒が云うもんだから、隆臣は折れた。
青、黄、赤、緑、此の四色で、電球を弱くしたり強くしたりすれば濃さを変える。叔父に口淫させ乍ら、侑徒は手元のスウィッチを回す。ぶあっと一気に明るくしたり、弱く落としたり、一気に暗くしたりと、ランプで遊んだ。一定の明るさで無いランプに叔父は気が散って仕様が無いが、照らされる侑徒の身体は幻想的だった。微妙な影の形、時には平坦な胸と腹を見せ、時には膨らみを持って居そうな影を腹に伸ばした。
「あ、イきそ…」
吐かれた言葉に叔父の舌は面白い様に動き始めた。
「あかん、ほんまイく…」
腰を両方から持って居たが侑徒の足が大人しくして呉れ無い為、腕で締める様に手を伸ばした。色々な顔を見せた乳首を摘み、吸い上げた。悲鳴を飲み込んだ様な小さな声と一緒に、どろりとした液体が叔父の口を満たした。口に出されるとは考えて居なかった叔父は如何したら良いか、口を噤んだ侭侑徒を見た。艶が、普段の侑徒の目には無い鋭さを見せた。
「出しはったら…?」
侑徒は云うが、ステンドグラスの色を白目に浮かす目に叔父は、倒錯を覚えた。物腰柔らかい態度は、人に嫌と云わせない。叔父は其れに素直に従い、侑徒が静かに与えた虐げに喉を動かした。
「此れで、ええのか…?」
乾いた唇を少し血色の悪い舌先で潤し、叔父は聞いた。
ふっと笑い、顔に掛かる細い髪が、口に入ったのを見た。一本だけ、真黒な髪が真白いな肌を通り、赤い口に入る。
「御休み為さい、叔父さん。」
ゆるりと動いた顔に、叔父の心臓は痺れた。
如何遣っても何を遣っても侑徒の心は動かない。うっすらと笑うだけ、叔父の心を掴んで離さない。此れが他の、在の東京人にも向けられて居るのか、嫉妬した。そして、其の嫉妬に悦を知った。
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