切り取られた風景(後)
欲しい物があれば好きなだけ持って行って良いと、侑徒を部屋に呼んだ。廉太郎にも声を掛けたが、御前の持ち物で欲しいの何かあるか、と無視をされた。隆臣の部屋にある物等、程度が知れて居る。
一番最初部屋に来た時、目を引き、圧倒的な存在感を侑徒に教えた在の写真は取られ、今は真っさらな壁紙が浮いて居た。
写真は?と聞くと、廉太郎が持って行った、師匠は麿眼鏡に犯されて居る、と廉太郎はちゃっかりして居る。師匠の写真以外、価値は無いのだ。
机に並ぶ写真、入学頃に撮った物であろう、“京都芸能大学”と打たれた看板の横で三人並ぶ写真を侑徒は見た。二人の顔は少し幼さを残して居た。美奈子は此の頃から鳥の巣頭であるらしかったが、幼さ残す顔に化粧は浮いて居た。
手にした侑徒は「此れが良い」と云い、「そんなんで良いなら」と貰った。卒業式の写真もあると見せられたが、此れは知って居る顔だったので要らないと云った。
隆臣だが隆臣で無い、美奈子だが美奈子で無い、けれど確かに二人の写真が良かった。
此れだけ貰った侑徒は、敷かれた侭の万年布団の上に座った。何時来ても布団は敷いてある。畳腐ってんじゃないのか、とめくろうとしたが、見ない方が良い、と布団に触れて仕舞った事を後悔した。
「きったな…」
「美奈子は絶対座んなかったね。」
一度干そうと布団を上げた時、変色する畳に気付いた。其れが凡そ二年前、道理で湿り、薄い。侑徒は慌てて布団から離れた。
「どんだけ汚いんや…」
「病気に為るだろうね。」
でも為らないのは何故だろう、あっけらかんに笑う隆臣に、阿呆だからだろうと云いたかった。
「廉太郎とかさ、筋金入りの潔癖症なの。部屋に来ても入らなかったよ。」
廉太郎が来た時は下の娯楽室で話して居たと云う。其処には卓球台や碁盤、将棋盤があるので丁度良い。二人には出来無いが。
其の細菌の巣窟、聞いて仕舞った所為で湯呑みに口を付けるのも躊躇われた。細菌発生装置隆臣は気にする事無く飲む。然し飲まないのも悪い、冷え切った茶を飲んだ。
「見送りさ。」
「うん、行ったるよ。」
溜息を漏らした隆臣に視線を流した。
「今迄、有難うね。」
「俺かて…」
有難う、云いたかったが、喉が詰まり言葉は出無かった。云いたい言葉は“有難う”等では無く、“行かないで”。決して口に出来無い言葉を茶で無理矢理押し込めた。
此方の桜の蕾は未だ固い。一足先に福岡に向かった師匠曰く、三分咲きで、隆臣が行く頃には満開で隆臣を迎え入れるだろう。
「手紙、送るね。」
「うん。嗚呼でも、廉太郎経由でええ?」
美奈子から葉書が来た時、叔父が余り良い顔をしなかった旨を伝えると「超過保護」と笑われた。
壁に張られたカレンダー。予備の日付、四月一日に丸が付いて居た。
「ほんなら、一日にな。」
「うん。」
写真の入る鞄と侑徒の背中を、消える迄見送った。
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