熟れた罪
見知っている道に迄着き、私は馬車を降りた。
あの昼間の暑さが嘘の様に引き、風が心地良い。
ふわふわとした足取りで歩いていると、家の前に、彼が居た。制服の侭、楽しそうに話している。相手は龍太郎だ。
彼より先に気付き、知らせる。
「嗚呼、やっと帰ってきた。何処に行ってたの。」
「帰ったら居ない、って半ベソかいてたぞ。」
「かいてねえよ。」
「まあ。」
私は笑って、彼の元に駆けた。足元の、障害物には、気が付かなかった。
「あ。」
彼の低い声が聞こえたと思ったら、私は其れに引っ掛かり、派手に尻餅を突いた。
「おいおい、大丈夫かよ。」
「大丈夫か。そそっかしい御姉様だ。」
「ええ、平気よ。気付かなかっ―――。」
電流が流れたかと思った。
打った其処から、鈍く痛み出し、其れは腹に達し、感じた事の無い激痛が瞬時に私を襲った。
私は痛みに耐えられず蹲り、震えた。
「姉、さん。」
異変。
其れは誰が見ても、おかしかった。
「おい。姉さん。」
「何か刺さったのか。」
身体を持ち上げ、調べるが、其処には何も無い。
全身が痛みで燃える様に熱い。
「姉さん。おい。しっかりしろよ。」
痛みで、気が遠くなる。
龍太郎が慌てて家に飛び込み、叫ぶ声が聞こえる。
「母さん。母さん。一寸来て下さい。」
「なあに。大きな声出して。見っとも無いでしょう。御馬鹿さん。」
「そんな冗談云ってる場合じゃないんですよ。姉さんが。」
其の言葉に飛び出し、私を見るなり、血相を変えた。
「どうしたの、貴女。こんなに真っ青で。何。何処か痛いの。」
彼から私を引き剥がし、全身を見る。
私は、無意識の内に、腹を押さえていた。
「どうしてこんな事になったの。」
母がもう居ない私と彼は、龍太郎の母が、母も同然だ。彼に厳しい口調で聞く。
「判んないよ。転んで、そしたら行き成り。」
「転んだ―――。」
そうしてゆくうちに、段々と下半身の感覚が無くなり、其れなのに、暖かい何かを感じた。
濡れてゆく地面。
「一寸、此れ。」
其の言葉が発せられる前に私は、彼女の着物を掴み、小さく首を振った。こんな事で知られては、彼に申し訳が立たない。
「判ったわ。」
小さく、私にだけ聞こえる様、云った。
「龍太郎、馬車よ。病院に連れて行くわ。」
「はい。」
揺られる馬車の中で、私は、婦人の顔を思い出した。
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