熟れた罪
数日して私は、家に帰った。医者からは、安静にしている様云われたが、とても出来そうに無い。此の重過ぎる罪を背負い乍ら、如何安静で居られ様。
薄暗い室内。彼が帰ってない事を知り、少し安堵した。しかし。
後ろから聞こえた声に、私は声を上げた。
「御帰り。」
「脅かさないでよ。明かりも点けないで、本当暗い子ね。」
ランプに手を伸ばした時、其の手は強く引かれた。其の力は強く、痺れが来る。
「何で、黙ってたの。」
其の低い声に、身体が強張る。
「何。一体何なの。明かりも点けないで居るわ、行き成り変な事聞くわ。一体如何したの。」
「変な事―。」
違う低さの声に、言葉を飲み込む。
怒っている。
温厚な彼が怒っている。
其れがどんなに怖い事か、私は良く知っている。
彼は私の腕を引き、勢い良くドアーを開けると、私をベッドに投げ捨て、そして、上から覆い被さった。
「何で云わなかったの。」
「何。何の話よ。拓也、一寸変よ。」
「変。変ねえ。そうかな。俺は至って普通だけど。」
顔に掛かる彼の柔らかい髪。微かにベッドが揺れている。
「もう一度聞くよ。何で妊娠してたの、黙ってたの。」
心臓が鳴った。
知られてしまった罰に、私は言葉を無くした。
「俺が、流せとでも、云うと思ったの。」
其の言葉に私は、激しく首を振った。
「違う。其れは違うわ、拓也。貴方がそんな事云うなんて、考えた事も無い。」
「じゃあ何で黙ってたんだよ。」
怒号に私は目を瞑った。
何時もの優しい口調でも、声でも無い、怒りを露にした男の声。其の声に、何故か私は死んだ父を思い出した。
「もう、半年なんだろう。何で今迄黙ってたの。」
落ちてきた水気。其れが彼の涙と知るのに、時間は掛からなかった。
「拓也。」
「如何して、何も云ってくれなかったの。」
私は今にも壊れてしまいそうな彼を抱き締め、呟いた。
「此の罰を背負うのは、私一人で充分。貴方に、迷惑を掛けたくなかったの。」
「迷、惑。」
「実の姉弟でこんな結果になってしまった。其れがどんな重さか。判って。」
私は、泣いていた。そして静かに微笑んだ。
深過ぎる、愛情、罰、現実。其れが全て合わさり、泣く事しか出来なかった。
触れた冷た過ぎる、愛しい手。此の手を、自ら拒む事は、私には、もう出来ない。
長い髪が触れ、耳に息が掛かる。其れがどんなに幸福か。この闇の中で、唯一の光。
「逃げ様―――。」
聞こえた、誘い。
「二人で逃げ様。誰も知らない、遠くの場所に。」
其れは甘く、私を酔わせた。
此の場所で、現実と向き合うのなら、逸そ、逃げてしまおう。
遠い、遠い、誰も居ない場所に。
T-ss