絵師と父親


帰り道の足取りは、不安定だった。二階に上がった俺は、鍵が使える部屋を見、言葉を無くす事しか出来無かった。
畳、壁、天井迄、茶色と黒を混ぜた様な色が散り、其れが父親の血だと知ると、胃に強烈な不快感を覚えた。
足の裏に伝わる、父親の血を吸い込み黒く変色した畳の固さ。襖の牡丹の淡い色彩は、其れを無惨に変えている。
其の場に居る事が怖くなった俺は、階段を駆け降りると挨拶もせず男の家から飛び出した。足は縺れ、喉が張り付き、痛い。首に滲む汗は髪を張り付かせ、拘束されている気分になる。
絵の様に。
男の家が見えない位置迄走り、呼吸を調えた。熱くなった胃から液が込み上げ、道端だというのに吐き出した。今更見るのでは無かったと後悔。頭に目にはっきりと残っている。
部屋中にこびり付いた、汚い血が。
其の血が俺の身体に流れていると思うと、吐き気しか来ない。
汚れた在の血が、身体を巡っている。
知った真実。
俺は、何処迄汚い人間なのだろう。




*prev|2/3|next#
T-ss