
名も無き色(24/30)

数日後。
庭へ柔らかな陽が差していた。
彩艶は縁側へ座り、静かに空を見上げる。
最終選別から戻って以来、傷は少しずつ塞がってきていた。
だが。
身体へ染み付いた緊張は、まだ抜けない。
風が揺れるだけで、反射的に気配を探してしまう。
夜になると、山の暗闇を思い出す。
鬼の笑い声。
向けられた視線。
そして。
“通らなかった”感覚。
彩艶は無意識に拳を握った。
その時。
「彩艶ちゃ〜ん!」
明るい声が響く。
ぱたぱたと足音が近付いてきた。
蜜璃だった。
その後ろには、大きな箱を抱えた刀鍛冶の姿もある。
蜜璃は嬉しそうに笑った。
「届いたよぉ!」
彩艶が小さく目を見開く。
日輪刀。
彩艶は静かに立ち上がった。
刀鍛冶が箱を下ろす。
「お前さんの刀だ」
低い声。
だがどこか、妙な空気が混ざっていた。
彩艶は箱の前へ座る。
静かに蓋を開けた。
中に納められていた刀。
彩艶はゆっくり手を伸ばす。
柄を握る。
冷たい感触。
鞘から静かに刀を抜いた。
しゃり、と音が響く。
刃が光を受ける。
その瞬間。
蜜璃が目を輝かせた。
「わぁぁ……綺麗〜!!」
彩艶は目を瞬く。
淡い藤色。
けれど。
角度を変えた瞬間、色が揺れた。
青。
紫。
銀。
ほんの僅かに、桃色にも見える。
定まらない。
見る度に印象が変わる。
刀鍛冶が眉をひそめた。
「……なんだ、この色」
刀を覗き込む。
首を傾げる。
「藤色……いや違うな」
「青……?」
「……今、桃色に見えなかったか?」
蜜璃は楽しそうに刀を見る。
「ほんとだぁ!」
「見る角度で違う〜!」
刀鍛冶は困惑したまま腕を組む。
「こんな日輪刀、見たことねぇぞ……」
彩艶は静かに刃を見つめた。
揺れる色。
掴み切れない光。
まるで。
今の自分みたいだった。
未完成。
まだ弱い。
まだ届かない。
それでも。
この刀で、もっと先へ行かなければならない。
彩艶はそっと刀を握り直す。
刃へ映る自分の姿を見ながら、小さく息を吐いた。
その瞳の奥には、最終選別の頃よりも少しだけ強い光が宿っていた。
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月下彩譚