淡いあなたとの思い出

私は失敗作、だったらしい。私だけじゃないけど。二つ上の兄と、一つ下の弟も。

白にときどき赤の入ったお揃いの髪。でも、一番下の弟だけは、なにもかも違ったのだ。

お父さんは焦凍だけは見てくれる。傷だらけの焦凍にお母さんはかかりきり。

私たちは、失敗作。

兄と弟はそれに耐えられなかったみたいで、どんどん塞ぎがちになっていった。部屋から出てこなくなった。

私はというと。


「焦ちゃん!」

きょとり、とふくふくの顔が振り返る。八つ下の弟はとても可愛い。なんでみんな構ってあげないのかな、いつも一人の末っ子。こんなにかわいいのに。

「おねぇちゃん」
「あっまた怪我してる。おけいこ?」
「うん...」

高めの椅子に座らせて、消毒してあげる。怪我の手当てはちゃんとしてって言ってるのに。痛いまんまじゃ可哀想じゃない。

「おねぇちゃん、なんで僕だけおけいこしなくちゃいけないの?痛いのやだよ...」

ぐすぐすと、焦ちゃんの目に涙が張っていく。それを見て心が痛むけれど、私にはなにも言ってあげられない。
兄も弟も、もちろん私だって両親が個性婚をしていて、失敗作の私たちにお父さんは興味がないことを知っている。でもそんなこと、まだ小さい焦ちゃんには言えない。
お母さんも今じゃあ部屋にこもってばかりいる。焦ちゃんを避けているのがわかる。どんどん似てくるって、それが怖いっておばあちゃんに電話してたことを知ってる。
私が、しっかりしないと、なんだけどな。

「焦ちゃん、どこか痛いの?」
「うん...」

話をすり替えることしか出来ない。ごめんね、焦ちゃん。膝を指差す焦ちゃん、そこは転けたのか擦り傷が出来てしまっていた。
ううん、転けたわけじゃないってわかってる。稽古だよね。お父さん、だよね。わかってるよ。ごめんね。

「ちょっと染みるよ、」
「うー...」
「はい、ばんそうこう!いたいのいたいの、とんでいけ!誰に飛ばそっかな〜」
「...おとうさん」

ぽつり、と呟いた焦ちゃんを宥めることなんて出来なかった。そうだね、飛ばしちゃおっか。

「そうね!よーし、お父さんに飛んでっちゃえ」
「うん」

涙を拭ってあげて、一緒に台所にいく。昨日買ったアイスを入れておいたはずだから。名前もちゃんと書いたし。開けてみれば、バニラ味のそれはちゃんとそこにあった。

「あった!おけいこ頑張った焦ちゃんにご褒美ですよ〜」
「アイス?」
「バニラだよ!夕飯前に食べちゃったのは内緒ね」

カップアイスを見て目を輝かせた焦ちゃんはスプーンを取りに行ってくれる。小さい手にはスプーンが二つ。

「焦ちゃん?スプーンひとつでいいのよ?」
「おねぇちゃんとはんぶんこ!」

にこり、と笑ってはい、とスプーンを手渡してくれる焦ちゃんを思わず抱き締めた。

こんなに、優しい子なのに。なんでみんなみんな、この子を見てあげないんだろう。

「おねぇちゃん?」

「...焦ちゃん、お姉ちゃんがいるからね。大丈夫。」

「うん?うん」

泣いちゃダメだ。辛いのは私じゃないんだから。



その夜夢を見た。昔の、まだ焦ちゃんが生まれてなくて、私が焦ちゃんくらいだったときの夢。

庭で転んで擦りむいた私の膝に、お母さんが絆創膏を貼ってくれて。

「いたいのいたいの、とんでいけ!」

二人でそう言って笑った夢。ちょっとだけ、泣いた。