悲しみは青って誰が決めたの

手紙はいい。読み返して、書き直して、納得したものだけを出せるから。何度でも悩んで書き直せるから。

今回は三回くらいだろうか、書き直してしまった。これでも減った方。便箋一枚に、このあいだとった焦凍の写真。中学の体育大会だ。父はこられなかったから、私が行って写真と映像をとってきた。その写真。二つを封筒に収めて、ポストに投函。これでひとまず、一段落。月に一度来る母からの手紙は、嬉しくも私のストレスに確実になっているのだった。

会いには行きたくない。でも、放ってもおけない。そしてたどり着いたのは文通だった。月に一度だけ。に、出来るように私の方が調整している。私の手紙から一週間を開けずに返事は来るから。

ほら、今回も。



薄い色の便箋は、弱いあの人を如実に表しているようだった。私と同じ個性の、お母さん。薄い、氷の色の便箋。

差し障りない季節の挨拶に始まる辺り、私たちの距離が窺える。敬語じゃないだけで、これは家族へあてた手紙だと思えるのだろうか。

目が文字を映すだけで、内容が頭に入ってこない。けれど。

《焦凍の写真をありがとう。冬美ちゃんの写真も見たいな、と思いました。送ってくれたら嬉しいです。》

あんたがいうなよ。

握り潰しそうになるのをこらえた。でもすこし個性が漏れてたらしい、床が少し凍りついていた。溶けた頃に、拭かないと。頭はそうやって冷静になっていくのに、力の入った手を緩められない。

置いていったくせに。自分から、離れたくせに。どう成長したか見たい?どんな風になってるの?なんて。ふざけるなよ、お母さん。

「...じゃあ帰ってこいよ」

ぽつり、と漏れた言葉に自分で愕然とした。なに、今の。
私はお母さんが帰ってくることを望んでるの?置いていかれたくせに?こんなに憎んでて、嫌いで、一度も会いにすら行けてないくせに?なんで、なんで帰ってきて、なんて言葉が漏れる?

「...冬美、落ち着け」

じゅわ、と音がした。なにかが、溶ける音。あと、父親の声。落ち着け?落ち着いてる、落ち着いてるわ。

「落ち着け。個性を収めろ、凍りついている」

は、と我に返った。辺りを見たらテーブル全体、たぶんそれより前はキッチン自体が凍りついていた。父が溶かして、水気を飛ばしたんだろう。それでも収まりきれない私の個性が、テーブルを凍らせていた。

「...ごめんなさい、お父さん」
「コントロール出来ずにどうする。お前、教師になるんだろう」
「うん...」

ちら、と私の手元を見たお父さんは、あいつからの手紙か、と言った。一度凍って溶けたそれはしなしなになって、ギリギリ判別できるレベルになっていた。

「...返事、書かないといけないのに。これ読めるかしら」
「なんとか読めるだろう。...無理して続けなくてもいいんじゃないのか、それ」
「なぁに、らしくもない。まぁそうね、毎回キッチン凍らせるなんてことしたら大変なことになっちゃう...。でも、大丈夫。今回だけよ、二度目はないから安心して」

しなしなになったそれをテーブルの上に放って、父の分の夕飯を暖める。凍らせたのがダイニングスペースだけで良かった、電化製品までおしゃかにしたらどうしようかと。

父はしばらくそれを眺めていたけれど、何を思ったかいきなり「...燃やすぞ」と一言言ってそれを灰にした。私はここでやらないでよ、と怒った。