02

それはいつも通りの小学校からの帰り道。自分の住む団地の一角にある小さな公園。幼い頃から遊んでいたその見慣れた公園に佇む1つの影に僕は目を奪われていた。
夕陽に照らされた白銀の長い髪に白のワンピース。ブランコをじっと見続ける自分と同じぐらいの女の子は、おとぎ話に出てくる妖精のようだった。しかし、その子の首には包帯が巻かれ、さらには裸足であるその少女はどこか普通とはかけ離れた雰囲気をもっていた。

「(どこの子かな?…ケガ、してるのかな……)」

ケガをしているなら助けてあげなければ。いや、でも女の子とあまり話をしたことがないし、どうすれば。自分が憧れている人気No.1ヒーローならば、きっと恐れ知らずの笑顔で手を差し伸べるはずだ。そんな葛藤が頭を駆け巡るよりも先に少年――緑谷出久の足はいつの間にか彼女へと引き寄せられるかのように動いていた。

「…ね、ねぇっ!」
「?」

突然声をかけられた少女はきょとんとした様子でこちらを見ていた。澄んだ空色の瞳がこちらを映す。その吸い込まれそうな瞳にまたもや目を奪われそうになった僕は少し赤く染まった顔で彼女に声をかけた。

「ケガ、してるの?だいじょうぶ?」
「怪我…?」

僕の言葉に不思議そうな顔をして、彼女は見つめてくる。そして、僕の視線が首の包帯に向けられていることに気づくと、「これは怪我じゃないよ」ときれいなソプラノの声を響かせた。

「そ、そうなんだ…よかったぁ…」
「?…どうして?きみが怪我してるわけじゃないのに」
「えっ?そ、それは…」

――なんで?どうして?
僕のつぶやいた言葉に少女は訳が分からないといった様子で僕を見つめてきた。それは本当に純粋な探究心から出た疑問だったのだろう。どうして、とつめ寄るその姿はまるで世界に放り出されたばかりの、生まれたての幼子のようだった。そんな少女の様子にしどろもどろになりながらも僕は言葉を紡ごうとする。
いろいろ理由はあったと思う。けど、その時は――。

「きみをたすけたいっておもったから…」
「えっ…?」
「ケガしてるのかなって最初はおもった。でも、声をかけたのはきみが…たすけを求める顔してたから」

僕の言葉に少女は目を見開いたまま固まってしまった。そこにきてようやく自分が何を言ったのかを理解した。急に見知らぬ他人にこんなことを言われたら、誰でも困惑するだろう。何を言ってるんだ自分は、とあわてた僕をよそに少女はくすっ、と笑った。

「…きみは面白いね。」
「そ、そうかな…」
「ねぇ、きみの名前は?…わたしは そら」
「ぼくは緑谷出久、ですっ!!」

彼女はいずく、と僕の名前を呼んだかとおもうと、まっすぐと僕を見つめてこう言った。

「…ありがとう、いずく」

茜空を背にしてそう言った彼女の笑顔を僕はきっと忘れることはないのだろう。
――これが僕とそらちゃんの最初の出会いだ。