05

「ねぇねぇ、それなーに?」
「あ?」

ヒーローズチップス。カードがおまけで1枚ついている子供向けのお菓子。オレはこのおまけカードの「オールマイト」が欲しいがために買い続けている。今日こそ当ててやる。夕飯前に菓子は食べるなとバ…親がうるさいため、この公園で密かに開けるつもりだったのに。オレのその手をとめたのは聞いたことのない澄んだソプラノの声だった。
目の前には白銀。瑠璃色の空のような大きな瞳がこちらを…いや、オレの手が持っている「ヒーローズチップス」の袋に向けられていた。誰だ、と思いつつ無視をして菓子の袋を開け、中に入っているカードの袋を取り出して破こうとすると。

「ねぇねぇ、」
「なんだテメーは」

邪魔すんじゃねーよ、と吐き捨ててビリっと袋を破る……チッ、なんだまたハズレかよ。苛立ちながらベンチの背もたれに寄りかかるとその白銀はひょいっと隣に座ってきた…かと思ったその瞬間。

「へぶっ!!」
「無視はよくないんだよ?」
「、いってーな!!何すんだ、この小動物!!」

ソイツは小さなその両手でオレの顔を固定したかと思えば、無理やり自分のほうへ向かせやがった。首からはグギッと嫌な音が鳴る。手ェ放せ、と白銀の小さな少女、もとい小動物の両手を引きはがしたオレと目が合うと、ソイツは何が面白いのかヘラヘラと笑っている。それにムカついたオレは脅しの意をこめて手のひらをバチバチッと爆発させた。小動物は一瞬驚いたような表情を浮かべ、流石に泣くかと考えていると。

「…かっちゃん!あなた、かっちゃんでしょ!!」
「オイ、テメーがなんで知ってんだ!?」

かっちゃん、かっちゃんと連呼しまくる小動物。誰だコイツに教えたのは。黙らせるつもりが余計うるさくなっただろーが。ふざけんな。どうこの小動物を静かにさせようか考えていると、ふとベンチに置いた菓子の袋が目についた。これだ。

「オイ、小動物こっち向け」
「?…はぐっ!」
もぐもぐもぐもぐ。

菓子を小動物の口に放り込むと、もぐもぐと頬を膨らませて食べ始める。ようやく静かになった。というか、何か食べ方も小動物だな、コイツ。餌付けをしているような気分になる。
しばらくの間、奇妙な餌付け(?)が続き、小動物も先ほどより落ち着いた様子だ。ごちそーさまでした!と手を合わせた彼女はまたこちらを見てにかっと笑った。

「わたし、そらっていうの!」


「デクっ!!コイツどーにかしろ!!」
「あ!いずくだー!」
「か、かっちゃん…に そらちゃん!?」

−−どういう状況なんだ。
僕が公園に来るとそこには先客が2人。そして、そこには目を疑う光景が広がっていた。

「(かっちゃんが女子と遊んでいる…。)」

昔からの幼馴染みであるかっちゃんだが、必要以上に女子と関わっているのを見たことがない。女子もかっちゃんの乱暴というかガキ大将なところを知っているからか、あまり接してこなかった。
なのに、今までのそれをぶち壊すかのようにそらちゃんはかっちゃんに引っ付いている。というか、懐いている気がする。何をどうしたらそうなったのだろうか。…その懐き具合に何故かモヤモヤとしながら、僕は2人に駆け寄った。

「いずく、かっちゃんに会えたよ!!」

ほらっ、とキラキラの瞳でそう言うそらちゃんの隣にいるかっちゃんの顔が恐ろしい。「やっぱりお前の仕業か」と言わんばかりのその顔にどんどん僕の顔が青ざめていくのを感じた。そらちゃん、怖いもの知らずだな…。

「かっちゃん、こ、これはね…」
「かっちゃん、バーンって爆発したから分かった!!」

きっと、かっちゃんが“個性”を使ったのだろう。幼馴染みがいると以前かっちゃんの話を彼女にしたことがあった。それに僕のヒーロー研究ノートにはかっちゃんの“個性”ももちろん書いてある。それらを短期間で読破しているそらちゃん。きっとそれらから彼を「かっちゃん」だと言い当てたのだ。

「かっちゃん、とってもカッコいいね!」

まっすぐに、そして純粋にかっちゃんを見つめて言うそらちゃん。そして、その言葉にみるみるうちに見たことがないぐらい赤面していくかっちゃん。そして、彼が我に返って爆破するのはその数秒後のことだった。

純粋すぎるそらちゃんに振り回されちゃうかっちゃん。