Chapter4


七瀬と恐山は、今でも週一で会って飲んでいるらしい。
いいな、と思う。わたしも男だったら、親友として恐山とそれくらいの頻度で会えたのだろうか。
いや、男だったら恐山と親しくなることもなかっただろう……。
「因[ちな]、そっちの恐山は矢内と付き合ってるんだろ?」
「いや、彼女がいる」
「ええっ、恐山のバカ、何してんの」
「でも、月に一回は会ってくれるぞ」
「それって最低なんじゃあ」
「それでもわたしにとっては、今でも恐山が一番だ」
今もって尚、わたしは恐山みたいに強くて優しい人間に、他に出会ったことがない。
「……じゃ矢内は、今の恐山――こっちの恐山には会わないほうがいいかもね」
電話の声を思い出す。
酷く冷たい声。恐山があんな声を出せること、わたしは知らなかった。
こっちの恐山――自然と七瀬のその言い方を受け入れていた。
元いた世界線とは違う。
こっちの世界のわたしは、七瀬が言うように、本当に十年前に死んでいるのだろう。
「どうしてだ?」
「矢内が死んで、葵ちゃんが死んで、恐山は荒れに荒れて、今も復帰してない。
自殺未遂もしたし、健全な煙草に混じって変な草吸ってるし、恋人はいないけどセフレが二、三人、かな」
いい奴ではあるんだけどね、と七瀬。
ああ見えて恐山は、中高の頃、わたしにデレデレだったらしい。
とても大切にしてくれていた、と自分でも思う。それでも、周囲から見たら、恐山はそれ以上に、わたしのことを大事にしていたという。
弟を亡くした恐山は知ってる。その傷を半年、わたしに隠し続けた。
でもその時だって、そこまで落ちてはいなかったはずだ。
差があるとすれば、わたしが生きているかどうか。だとするならばわたしの死は、それだけ恐山に影響したことになる。歪んでいるなぁと思いながらも、少し嬉しかったのも確か。
「矢内の名前は、今じゃ恐山の前じゃ禁句になってる」
「なぁ、七瀬」
「ん?」
「恐山に、会いたい」
「こっちの?」
「うん」
「止めとけ。ドリーム崩れちゃうぞ?」
「でも、」
――結局言い募るわたしに根負けして、七瀬は恐山に電話してくれた。




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