04
「なにこれ」
「…うーん、リクエストでは?」
ぺらりと、式神から渡された紙を見つめて丹色は首をかしげた。何かのコピーのようで、そこにはたくさんの野菜の名前と数字の羅列がある。この名前と数字の並びは丹色もよく知っていた。これは本丸の食材の在庫情報である。これは丹色も、パソコン画面で良く見るものだ。足りない食料品があれば適当に買い足しておく。減りが早い食べ物や遅い食べ物はある程度把握しているので、それなりに刀剣たちの好き嫌いは把握しているつもりだ。
しかし、今回は少し異例だった。食料表にはある程度の基本食材があらかじめ表記されていて、それ以外の特殊な食品に関しては欄外に専用のスペースがあるので、在庫があるならそこに表記される。その欄外スペースに、おおきく『あんこう』『鰻』の二つが書かれていた。文字は歪だった。
「いやリクエストって……なんでこんなヌルヌルばかりリクエストするの?ていうかこれリクエストなの?」
「こんのすけにも分かりかねますが…。でも鮟鱇って美味しいらしいですね?」
「高級魚ではあるかなー。テレビでも見て食べたくなったのかな」
その可能性が高いな。そう結論付けた。本丸にも2台ほどテレビを置いてあるので、自由に使っているはずだ。丹色は紙を睨むように見つめる。
「ちょっと高いけど……ま、たまにはいっか」
普段のご褒美だ、と丹色は立ち上がると早速パソコンに向き合う。その背中にこんのすけが飛び乗った。
「鮟鱇、買うのですか?」
「うん。折角だからお取り寄せする。どこがいいかなー」
慣れた手付きで、『鮟鱇』『名産』で検索をかける。せっかくなら天然でいいだろう。
これかな、というものに目星をつけると、今度は鰻探しに取り掛かる。
「鮟鱇はともかく、鰻なら何日かくらいで届くでしょ。ついでに自分の分も頼んどこーっと!」
「え゛」
こんのすけが毛を逆立てた。あれ、鰻嫌いだっけ?そう思って聞いてみたら、首をぶんぶんと横に振られた。嫌いではないのならなんなのだろうか。
こんのすけが頭の上に乗っかって、パシパシと叩き始めたから困る。
「な、生は嫌でございます!出来合いを!既に美味しく出来上がった老舗のうな重を所望いたします!!!」
「いった!ちょ、何わがまま言ってんの、私だって食べたいわそれ!!だーいじょうぶ、ちゃんとこんのすけの分も作ってあげるから」
「ヒィイイ!!嫌でございますぅうう!」
「ちょっと、なんなの!」
「丹色様は自覚が足りません!も、もし怪我でもなさればどうされるおつもりか!!」
やけに手作りを嫌がるこんのすけのこれは初めてではなかった。本丸に来た始めの頃は作って食べたことがあったが、それだけだ。政府に何か言われたのか、丹色が包丁を持つことすらひどく嫌がる。おかげさまで、丹色のご飯は基本的にレトルトか出前である。そのせいで食費のかさむことかさむこと。それなりに給与の高い職業なので困りはしないが、正直作りたいというのが丹色の本音である。
「包丁を使います、火を使います、串を使います…味付けもします!駄目です、ゼッタイに駄目です!!」
「味付けのどこに危険があるのか問い質したい」
まるで料理音痴と言わんばかりのこの言動にはイラっとくる。
「ですが、老舗のうな重ほど間違いの無い美味しいものはございませぬ!!そうでしょう!?」
「まあ…たしかに」
「さあほら、都内の老舗サイトへ入るのです!!」
「あれ、私のせられてね?」
さあさあ、と言われるがまま、都内のお取り寄せ可能なうな重を探す。流石首都内。これでもか、というほど高いうな重もお取り寄せできた。買わないが。
クチコミで評判の良い店を探し出し、結局そこからお取り寄せすることとなった。
ちなみに刀剣たちには生の方をお届けする。鰻はすぐに届く。時期外れとはいえ、あちこちで売っているものだ。それこそ2日3日で届こう。問題は鮟鱇だが、…まあ、鮟鱇と鰻は同時には食べないか。と片付け、届く日にちはずれるように調整しておいた。
予定通り、まずは鰻が丹色のもとへ届けられた。大きな発泡スチロールの上に張り付けられている郵便伝票だけべりべりとはがすと、式神に言って冷蔵庫まで運ばせた。
すると待ってましたと言わんばかりにその日のうちに鰻は全てなくなった。
「やっぱりリクエストだったのかな」
「まあそうでなくても、鰻はすぐに消えそうなものですが…」
彼らがうなぎ丼を作ったと思われるその日に、同じようにして届いたうな重をパクパク食べながらパソコン画面の食材表を見つめた。すぐ横ではこんのすけがガツガツとうな重に食らいついていた。美味しいよね、これ。
鮟鱇が来たのはその翌日で、これも同じように郵便伝票をべりべり剥がして式神に運ばせた。
「まさかあんな方法でリクエストがくるとはなー」
「ですが、これで見事に答えてしまったことになります。これから先、無茶なリクエストが来なければいいのですが…」
「そのへんは刀剣たちも弁えてるでしょー」
最近の刀剣の活躍は目覚ましいものがある。それは戦果もなのだが、鍛刀においても表れている。元来、鍛刀は得意ではないのだが、所謂レアと言われる太刀の鶴丸国永が出来上がった。
この頃は夜戦も少なくなく、それなりに疲労もたまっているだろうと思ってのことだった。
「いやいや、忘れてませんか?刀剣男士たちはこれが審神者様のポケットマネーであることを露も知りません」
「うん。そうだね」
「つまり、頼んだものが頼んだだけやってくる不思議な冷蔵庫だと思われると…」
「……。やばい超リクエスト来るんじゃないの!!」
「そうですよ!!」
やっと分かったか!と言わんばかりにこんのすけが毛を逆立てる。
まずい。これはまずい。刀剣たちは最年少でも幕末時代の、要は今から数えて400年近く生きている。生きている、というのはなんだか語弊があるが、あながち間違いでもない。何が言いたいか。無邪気にお菓子をほおばる短刀であっても、それなりに舌は肥えているらしい。下手な安物にはあまり手を出さない傾向にある。誰が食べてもおいしいと思うようなそれらは、当然ながら一瞬にして無くなる。長生きとはいえ、人の姿をとってからは短いはずなのに味覚が鋭い。
そんな彼らからドシドシリクエストが来ようものなら…ぞっとする。
「え、えー…短刀からリクエスト大量にくるのは面倒くさいなぁ…」
「知りませんよ…。あきらめてお菓子買ってあげたらどうです?」
「お菓子大量消費前提じゃん」
「供物だと思えばそんなもの軽い軽い」
「よーし、手始めにこのキツネめを生贄として捧げようか」
「な、なんと酷いことを!!!」
こんのすけはいつだって丹色様のために…そう言っておいおいと泣き真似を始めたこんのすけの頭をポンポンと撫でる。
「ありがとう、こんのすけのことは忘れない」
「鬼審神者!!!」
バシンと力強く腕を叩かれた。
そんなことより対策しろ!
そうがなるこんのすけに、渋々頭をまわすことにする。
「…別にリクエストに毎回答えなくてもいいんじゃない?たまに答えてやるくらいで。むこうは私が注文してること知らないんだし…」
「うーん、それで終わればいいんですけどね」
やたらと心配するこんのすけだが、対して丹色はあまり気にかけていなかった。
「だって、歌仙が食材は私持ちなのを知ってるし」
「へ?…えっ!!それ初耳なんですけど!!」
「一応歌仙には冷蔵庫のシステムを伝えてあるよ。ほら、昔は唯一の台所男士だったし」
「あ…ああー。なるほど…そのときですか」
うん、と頷く。本当は専用の打ち込むリモコンがあって、それを歌仙が持ってるはずなのだが。しかし直書きで来るとは思わなかった。
「リモコンなくしたのかな」
「リモコン操作なのですか?」
昔はそれなりに刀剣たちと関りはあった丹色。今は諸事情で関りは薄いが、その時に歌仙には伝えていた。ほしいものがあったらいえ、と。
「まあ使われたのは今回が初めてなんだけどねえ」
「へえ、そうなんですか。…ん?じゃあ、これは歌仙様の字でしょうか?」
「だろうね」
一瞬だけ沈黙がおりた。
にしても字が汚いな。
▲ ▼
モドル