「ぶえっくしょい」
「風邪ですか?」
私が自分のポケモン達を出して遊んでいるその向こうで、博士は自分の机でパソコンを見ながら分厚い本とにらめっこしていた。
「誰かが噂をしていたんじゃないかな?モテる男はつらいよー!」
「へー」
「これまた見事な棒読み!」
風邪ではないと博士は言うが、どう考えても風邪だと思う。
三日前くらいに雨に全身濡れたことがあった。原因はきっとそれ。
「少しは休んだらどうですか」と、言おうとしたその時、エレベーターが到着した音が鳴った。
「プラターヌ博士、お客様がお見えになっています」
「ああ、今行くよ」
博士の助手が呼びに来た。目があったので会釈すると「こんにちは」と返した。
「それで、行ってらっしゃいのハグは?」
「はっ」
突然のおねだりに、私は素っ頓狂な声を出してしまった。
「行ってらっしゃいのハグだよ。これから仕事に向かう彼を、愛の力で送り出すハグ!名無子にして欲しいなあ、絶対可愛いと思うよ!うん!」
「や、やめてください、大きな声で。恥ずかしいです!」
隠しているわけではないので、研究所にいる全員が二人の関係を知っている。
今更何も恥ずかしがることなんてないのだが、人前で言われると訳が違う。
「別に照れることはないよ。みーんな、ボクと名無子のことは知っているから」
「そういう問題じゃないんです!」
奥にいる助手さんは気まずそうに「先に行きますね」と下に降りて行った。
「ほら、これで問題ないね?」
「ほんっと、どこまでもわがままなんですから博士は……」
それでも博士が相手だとつい甘やかしてしまう。そんな自分も憎たらしい。
両手を広げて待つ博士の元へ行くと、すっぽりと包まれ背中に手をまわされる。
大人しく顔をうずめると、白衣からは博士が普段使っている香水の匂いが微かにした。
「行ってらっしゃい……」
「はい、行ってきます」
満足した博士は私を解放すると、私のポケモン達にもそれぞれ挨拶をして下に降りて行った。
「私、なんであんな人好きになっちゃったんだろうね」
傍にいたルリに訊く。ルリは私の言葉を理解してるのかはわからないが、ルリは私の顔を見て嬉しそうに鳴いた。