「だからあれほど言ったじゃないですか。忙しくても、適度に休みを取らないと、そのうち倒れますよって」
「はい……おっしゃる通りです」
私は今、博士の部屋にきている。
博士はというと、寝不足でめまいを起こし現在はベッドの中で横になっている。
「まさか本当に倒れるとは思ってなかったんだ。そこまで柔じゃないし」
博士はため息を吐くと「歳かな」と呟いた。
「いくら体力があっても睡眠はちゃんととらないと、どんな人でも倒れますって」
嘆く博士を慰めながら、私はベッドの淵に座った。

「ねえ、名無子も一緒に寝ようよ」
博士の言葉にピシリと固まる。いや、そういう意味で言ったわけじゃないのはわかっているし、きっと本当にただ寝るだけなんだろう。けど、好きな人に言われれば意識してしまうわけで。
「私は遠慮します。今はお疲れなんですから、博士一人でゆっくり休んで……きゃあ!」
「捕まえた」
この場から去ろうと急いで立ち上がるがそれもむなしく博士の腕に掴まれてしまった。そのままベッドへと転がる。
「名無子はあったかいなー」
「博士、離してください……っ」
「やだよー!」
今日ほど博士を殴りたいと思ったことはないだろう。
博士の腕から逃れようと少しだけもがいてみたが直ぐに諦めた。

「だってね、名無子が可愛すぎるんだ」
博士は自分の方へ顔を向かせると髪を撫でる。
「隣にいてくれるだけでも嬉しいのに、名無子が優しいからついつい甘えてしまう。今日だってそう。ボクの不注意で倒れたのに、名無子は嫌がらずにボクに付きっ切りでいてくれる」
「それは当たり前じゃないですか」
「わがままだとか、迷惑だとか、思わないの?」
「あのですね、私は博士のことが嫌いじゃないんですよ。それに博士のわがままなんていつものことじゃないですか。もう慣れました」
「……うん、そうだったね。名無子は本当に、ボクにはもったいない恋人だ」
博士はぎゅうっと腕に力を込めた。少しだけ息苦しい。
「苦しいです博士」
耳が熱くなるのが自分でもわかる。顔を上げれば博士と目が合ったので思わず逸らした。
「ね。ずっとずっと、名無子と一緒にいたい。駄目かな?二人がいくつ歳をとっても、ずうっと」
「それって」
つまり、そういうことですか?そう続けたいのに、緊張して上手く言葉が紡げない。どきどきと鳴る鼓動が少し落ち着いた頃、小さな寝息が聞こえてきた。まさか、と博士の顔を覗き込む。

「寝てる」
それもそうだ。寝不足でぶっ倒れて、寝るために部屋にきたのだから。
「ふう」肩の力が抜ける。
普段の二割増しで緩んだ博士の顔。初めて見た博士の寝顔は、とても可愛らしかった。
規則正しく聞こえる寝息になんだか私まで眠くなってきてしまう。
「この腕どうしよう……」
無理に解いたら起こしてしまうだろうか。だとするとこんなに気持ちよく眠っているのに申し訳ない気がする。博士の思惑通りにいくのが少々不満だが仕方がない。
「今日だけですからね。いや、結局いつもこうなるのか」

めくれていた布団を丁寧にかけ、寝ている恋人にそっとキスをした。

「おやすみなさい」

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