名無子に「キスして」なんて、後から気付いたけど、積極的なことを言ったとおもう。
しかも、そのお願いは、笑顔で断られるという結果になったから、笑いものだ。
そのまま名無子と同じ部屋にいるのが気まずくて、僕は部屋からそっと出た。
「嫌われては無い、はずなんだけど……」
僕は、人に裏切られたり、つらい事にも慣れている方だ。でも、心を許した人に拒絶されるのは、多少なりともショックを受けるわけで。
庭で少し頭を冷やそうかな。そう、歩き出そうとした時。
「名無子さーん!これ洗濯物です……って、名無子さん、うずくまってどうかしたんですか?」
堀川さんの声だ。
「えっ、ああ!いや、なんでもないよ!ちょっと考え事してた!」
「それにしてはなんだか様子が……顔も赤いですし。熱でもあるんじゃないですか?」
「違う違う……!えっとね、実は――」
恥ずかしかった。確かに名無子の声で、そう聞こえた。
普段そういったことには無関心な僕だから、あまりにも驚いて、どうしていいかわからず、咄嗟に出た言葉が「ごめんね」だったらしい。
なんだ、そういうこと。心配することも、悲しむことも無かったんだ。
何がおかしいのかわからないけど、自然とほころぶ口元に、僕は手を当てそっと隠した。