ジュウと何かが焼ける音と、食欲を刺激される匂いに誘われて私は目を覚ました。
「ん……」
「名無子、もう七時になるよ。そろそろ起きなさい」
「はーい」
吉良さんの声に答えるようにゆっくりと身体を起こす。が、いくら力を込めても私の体はぴくりとも動かない。
次第に意識はハッキリしていき、腹部が妙に重たいことに気がつく。手で探ると、そこには筋肉ででこぼこした腕が絡み付いていた。
そういえば昨日、カーズさんが布団で寝たいと駄々をこねて「ジャンケンで勝ったらいいですよ」と言って私が負けたのだった。
仰向けで寝ていた私は首だけを動かして右に向ける。あと一センチで鼻先がくっつきそうなところに、カーズさんの端正な顔があった。
同い年の女性ならばこういった状況に顔を赤らめて慌てるのだろうか。
慣れとは恐ろしいもので、家族のように暮らしていると、ほぼ全裸の男が一緒に寝ていても全く平気になってしまった。今も私は真顔でカーズさんの頬を遠慮なく叩いている。
「カーズさん、一緒の布団で寝るのは一万歩譲って許しましたけど、私を抱き枕代わりにするなら布団出禁にしますよ」
「……ム」
カーズさんの手は私の脇腹へと回り、優しくなぞるように上下する。
「ラッコちゃん……」
くすぐったくて思わず身をよじる。今寝言が聞こえたけれど、いったいなんの夢を見ているのだろう。その無防備な姿はまるで母親に甘える子供のようだった。これが所謂母性本能というものなのか、何故か可愛いと思えてしまう。この年で母親なんて、ましてや自分より六千倍も年上の子供がいるなんてお断りだけど。
と、呑気なことを考えていたら、大人しかったカーズさんが急に腕に力を込め始めた。
「ちょっ」
寝ぼけている所為なのか、力加減なんてものはない。(自称)生物の頂点に立つカーズさんの全力が今、私の腹にかけられようとしている。
ミシミシと音をたてる私の身体に命の危険が迫っているのがわかる。焦る私をよそに、なおも気持ちよさそうに眠っているカーズさん。やばい。私の身体が真っ二つになってしまう前に、早く助けを呼ばなければ。
「吉良さんっ!!!」
料理の音にかき消されないよう大声で吉良さんを呼んだ。朝食をテーブルに並べていた吉良さんと視線が合った。
「助けて」と言わなくてもその状況で何が起きていたかわかったようで、吉良さんが「キラークイーン!」と呼ぶのと、カーズさんの身体が吹っ飛ぶのはほとんど同時だった。
私はスタンドが見えない。
スタンド使いではないからだ。
だから今目の前で起きてる様子も、まるでポルターガイストを見ている気分だ。
カーズさんを吹き飛ばした爆風で起きてしまったDIOさんが、睡眠を邪魔されたと吉良さんと喧嘩している。
何もないところで起きる爆発、瞬間移動(ではないらしいがそう見える)をするDIOさんにぶつからないよう避けつつ布団をたたみ、テーブルへとついた。
いただきますの合図で、何故かディアボロさんが寝ている押入れのふすまが割れた。特に驚くこともなく、肉が潰れるような音をBGMに、私は吉良さんが作ってくれた目玉焼きを口に運んだところでようやく喧嘩は収まった。
「カーズさんはこれから布団禁止です」
無表情でぴしゃりと言い放てば、頭から血をだらだらと流したカーズさんが睨んだ。正直かなりホラーな姿だが、ここでは流血沙汰はしょっちゅうなので気にしない。
「なっ……そんなひどい宣告があるか!?このカーズ、昨日ジャンケンとやらに勝ったばかりなのだぞ。一週間布団で寝ても良いと言ったではないか!」
怒りが頂点に達したカーズさんはテーブルを叩いた。衝撃で食器が揺れる。
「カーズ、テーブルを叩くのは行儀が悪いと言っただろう」
「この極悪非道め、名無子は人間じゃあないな!人間の皮を被った化け物なのだ!」
「駄目ですよ、DIOさんの悪口言ったら」
「おい、それは一体どういう意味だ」
「しまった、もうこんな時間か。名無子、食べたら会社に行くよ。ああ、食器は私が洗っておくからそのままで構わない」
「ありがとうございます」
「無視をするなァ!」
「DIOさん、近所迷惑です。静かに」
「そうだぞ餌。静かにしろ。静・かァ・ニィ!」
「WRYYYYYYYY」
(家族で15題/TOY様)