洗面所を覗くと既に先客がいた。
「あれ、ディエゴ君も今から歯磨き?」
「よ、名無子」
歯ブラシを取るため洗面所に近づくと、私が何も言わなくてもディエゴ君はそっと横へ避けてくれた。
ディエゴ君はこういう何気ない動作がいちいちスマートだ。ルックスもその辺のアイドルよりもずっと整っているし、ここの暮らしに慣れてしまった私でもおもわずドキっとしてしまう。
他の住人も顔はいいんだけどね。どこかに常識を置いてきてしまった人達は本当に残念なイケメンだとおもう。
安売りで買った歯磨き粉を付ける。貧乏なのでチューブから出すのは米粒程度のごく少量。
「今日も疲れただろ。あいつらの相手して」
歯ブラシを咥えたままディエゴ君が言った。
「んー、まあ。でも仕事であった嫌なことも忘れちゃうくらいここの人たち強烈だから、ある意味助かってるのかも」
「名無子は強いな」
「そうでもないよ」
「あれ?二人とも歯磨き中でしたか」
背後から声が聞こえて振り向くと、「実はぼくも今からで……」と少し顔を赤らめて笑うドッピオ君がいた。
自分の歯ブラシを手にとったドッピオ君が歯磨き粉を当たり前のように少量付ける。この家に住むものはみな節約という二文字が染み付いている。悲しい事実だ。
私とディエゴ君の間に収まったドッピオ君が磨き始める。洗面鏡には横一列に並んだ三人が映っている。
「狭いね」
「そうだな」
「す、すみません……」
少し俯いて申し訳無さそうにドッピオ君が言った。
「ううん、怒ってるわけじゃないよ。この家自体が狭いんだもの、しょうがないって。もっと大きい家に住めればいいんだけどね」
「この家の住人は働かないやつばっかりだからな」
ぽろと愚痴にも聞こえる言葉を溢したディエゴ君を見て、ドッピオくんが小さな声で「ボスのことは許してあげてください」とフォローしていた。ああ、こんないい子があのディアボロさんのもう一つの人格だなんて信じたくない。
「こうして並んでると、なんだか兄弟みたいですね」
鏡を見てドッピオ君が言った。
「私が長女?あんまりいいお姉さんじゃなさそう」
「朝に弱くて面倒くさがりでてきとうな姉か」
「迷惑ばっかりかけそうだね」
「でもぼく、名無子さんがお姉さんだったら嬉しいです」
「本当?」
「名無子さんは優しいし、頼れる存在ですし……そ、それだけが理由じゃないんですけど……」
「褒められることって全然無いから照れちゃうな。ドッピオ君のためなら私、姉でも母でも恋人でもなんでもなっちゃうよ」
こんなに可愛い天使を自分が独占できるならさぞ幸せだろうな。仮定の妄想を頭のなかで楽しんでいたら、
「いくらなんでも恋人はないだろ」と、口を濯ぎ終えたディエゴ君が一言。
「なになにディエゴ君ヤキモチ?」
自分と一番歳が近いということもあってか、ついついからかって意地悪してしまう。
「ち、違う、そういうわけじゃあなくてだな……」
「素直じゃないなあ、ねー?ドッピオ君」
「はい!」
ディエゴ君は悔しそうに「うるさい!」と言った。
(家族で15題/TOY様)