「吉良さん、今日って何のゴミの日でしたっけ?」
「今日は燃えるゴミの日だよ」
「あ、それじゃあ私ゴミ出してきます」
「いつも悪いね、名無子」
「いいんですよこれくらい。吉良さんにはお世話になりっぱなしですから」
「そうかい?」
朝ごはんを作りながら、ピンク色のエプロンを付けた吉良さんが言った。
ゴミは昨日のうちに吉良さんが集めてくれていたらしい。玄関の脇に、パンパンに膨れたゴミ袋が一つ置かれていた。みんなもっと地球に優しくして欲しい。今度節約と大きく書かれた紙の隣に、エコも貼っておこう。
ちなみに他の住人はまだ夢の中だ。DIOさんは昼夜逆転しているので、私が起きたのと同時に棺へ入っていた。吉良さんとディエゴ君が働けニートと怒るのは無理もない。
外へ出ると、夜が明けたばかりの空はまだ白っぽかった。
いくら冬用とはいえ、寝巻のままでは不安だったのでモコモコのパーカーを羽織って出て正解だったな。
茶色く錆びた階段を慎重に下りる。ゴミ捨て場は、門を出たすぐ脇にある。他に住民がいないのか、ここのゴミ捨て場はいつも綺麗だ。まあ、その方があの人たちには好都合なのかもしれないけれど。
「これでよし」
丁寧にカラス避けの網をかけて、家の中に戻ろうとした時だった。どこからか馴染みのある曲が聞こえてくる。
「ラジオ体操?」
そういえば、前に吉良さんがこの辺でラジオ体操をやってるみたいだよって教えてくれたっけ。
時間はまだある。なんとなく気になった私は、誘われるように音を探し歩きだした。よく知った近所なのに、初めての場所を歩くような感覚を味わいながら、辿り着いた場所は児童公園だった。
「ここでやってたのかぁ」
ベンチと滑り台、それと広場があるだけのシンプルな公園。そのベンチに置かれたラジカセから流れる曲に合わせて、集まった人たちが一斉に体操していた。
集まっているのは全員老人。ざっと数えて十人はいるだろう。もし毎朝欠かさず行ってるとしたら偉いなぁ、なんて考えながら公園をぐるりと見回すと、一際輝きを放つ人物がいた。
老人の中にも、公園の景色にも、溶け込むことを許さない異質な存在。しかし、どうにも見覚えがあった私は、目を細めてじっと見つめる。あの金髪は、もしかして。
「ヴァレンタインさん!」
「おや、名無子じゃあないか」
「何してるんですか、こんなところで」
「ラジオ体操だよ」
いや、まあ。それはそうなんだけど。そうじゃなくて。
「国民とのコミュニケーションは大切だろう?」なんて、そんな朝陽に照らされた金髪より眩しい笑顔で言われても。
私が反応に困っていると後ろから名前を呼ばれた。振り向けばそこには何故か少し怒ったディエゴ君がいた。
「ディエゴ君!どうしたの?おはよう」
「おはよう。じゃなくて!いつまで経っても戻らないから吉良が心配してるぞ!ったく、こんなところにいたのかよ……って」
「久しぶりだな」
「なんでお前がいるんだ変態野郎」
「急に時間が出来たものでね。たまには顔を出さないと忘れられてしまうだろう?」
「こんな特徴的な髪型とオーラの人、なかなか忘れたりしないと思いますけどね」
「それは喜ばしいことだ」
緩やかなピアノに合わせて深呼吸をしながら、ヴァレンタインさんが言った。
このなんとも自由な人、ヴァレンタインさんは大統領らしい。本当に大統領なのか、実際には見たことがないので、らしい、としか言えないのだが。立ち振る舞いとか、漂わせているオーラは確かに一般人とはかけ離れた雰囲気がある。
ディエゴ君とは過去に色々あったらしく、心底嫌っている。本当に嫌っているので逆に過去に何があったか未だに聞けないでいる。
お仕事が忙しいので、時間が出来た時にだけこうしてふらりと遊びに来てくれる。
「さて。体操も終わったことだし、そろそろ私は帰るとするよ」
「えっ、もう帰っちゃうんですか?」
「さっさと帰れ変態」
ヴァレンタインさんを睨みつけるディエゴ君。いつ恐竜化してもおかしくないくらいイライラしているディエゴ君にハラハラする。
そんな私達の様子を気にすることもなく、ヴァレンタインさんは綺麗にカールした髪を手で払い言った。
「なにぶん忙しくてね。実は急遽来れたのも奇跡に近いんだ」
「それでラジオ体操に参加する奴がいるかよ」
「君も明日から参加したらどうだい。イライラした気分もきっと晴れやかになるだろう」
「うるせえ」
不機嫌度が最高潮に達しそうなディエゴ君を横目に、ヴァレンタインさんが懐から取り出した国旗を空に放った。ひらひらと優雅に宙を舞うその下に入り込むと、「また来るよ」と言い残してそのまま国旗とともに消えてしまった。
消えた跡地に一つの茶封筒。恐る恐る手に取り中を開けると、そこにはお札が何枚か入っていた。ありがとう大統領。私は大好き。
「いつも思うんだけどさ」
「ん?」
「大統領っていうより、手品師の方がしっくりくるよね」
「そうだな」

(家族で15題/TOY様)

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